悠介の従妹である美波はどうしているであろうか?
今日はゴ-ルデンウィーク明けの月曜で通常通りの授業があったから、美波が帰宅したのは4時過ぎだった。朝からどんよりとした曇り空で、日中でも5月にしては肌寒いと感じるくらいの陰鬱な一日だったこともあり、美里はリビングのソファ―に腰掛けたら、どっと疲れが出たような気分だった。何となく体が怠く感じる。
-連休中に遊び癖がついちゃったからかな? あ-あ、連休が過ぎちゃうとつまんないなぁ。
連休前半は例の向井のことで頭が一杯だったし、昨日までの4連休も夕方からは気を抜けなかったから体より神経が参っているのかもしれない。
一体いつまでこんな生活を続けなければならないんだろう。
終わりが見えない不安に押しつぶされてしまいそうな自分が哀れに思えてきた。
そんな落ち込んでいた時、メッセ-ジの着信音がした。悠介からだった。
今日は講義がある日なのに、こんな時間に送ってくるとはどうしたんだろう?
そう思いながらメッセ-ジを開くと、簡単なメッセ-ジと共に動画が貼り付けてあった。メッセ-ジは
『元気にしてるか? これ聴いてもっと元気になれ!』
ふッと微笑んで動画を開くと、椅子に腰かけギタ-を弾いている悠介の姿があった。
懐かしいイントロが聞こえてきたと思ったら、悠介の聞き慣れた甘い声が耳に心地よく響いてきた。その曲はほんの半年前まで放映されていたテレビドラマの主題歌であった。
-これは、愛を告白する歌じゃないの…。
君が好きだ、とかいう直接的な言葉はないけど、君に会いたい、君を笑顔にしたい、君に届けたい、などという胸をときめかせるフレ-ズが並んでいる、まさに愛を語る歌なのだ。
エンディングの後に、『美波ちゃんのこと、忘れてないからね。』という言葉が飛び込んできた。
美波は心臓が飛び出るかと思うほどびっくりしてしまった。
この『忘れていないからね』というのは、向井の件のことを忘れてはいないよ、いう事に違いない。違いないのだけれど、それを聞いた時に真っ先に頭に浮かんだのは、違う意味だったのだ。
『君のことを忘れてはいないよ』
つまり文字通りの愛の言葉に聞こえたのだ。
それは美波にとって全く予想外の思いといっていい。
-悠介くんの言葉から、私が『愛』を感じたなんて…。
そうなのだ、連休前の美波には考えられないことだった。悠介のことが好きだとは思っていたが、恋人とか彼氏という意味でないことは美波自身ハッキリしていたと思う。
とても付き合いたい、という気持ちではなかったと思う。
それがどうしたことだろう、あれから1週間しか経っていないのに、悠介の自分を元気づける言葉から、愛という《特別な》言葉を真っ先に思い浮かべるなんて…。
-私は悠介くんを《本当に》好きになってしまったのかしら? つまりは、私は彼を愛しているってことなの?
このことは、ある意味悠介の告白を聞いた時以上に、美波には衝撃的な出来事に思えてきた。
今自分は、今まで経験したことのない未知の世界に足を踏み入れてしまったのかもしれない。そこからは今までの世界に後戻りができない、細い細い一本道を。
-悠介くんが恋人になるってこと?
恋人ということは、いつかは彼に抱かれることもあるのだろう。いつかはキスをするようになるかもしれない。
そして、いつかは…。
そう考えただけで、顔が、体中がまるで瞬間湯沸かし器のように瞬く間に熱く火照ってきたと思ったら、身体の奥底からじんじんと何か熱いものが湧き出てくるような感覚に襲われた。それはまるで誰かに身体を触られているような、それでいて痺れるような、下半身から力が抜けていく感覚だった。もちろん、今までに体験したことのない、ある種甘美な感覚でもあった。
-私はいま、悠介くんに抱かれているのかも…。
そう考えたら、美波はもう気持ちを抑えることが出来なくなってしまっていた。
-つよく抱いて、お願い!
もう間違いなく、もう引き返せない道を、自分は歩いているのだ、と感じた。
《つづく》
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