恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

第16話 賽は投げられた 

君は一人じゃない、なんてカッコいいこと言って安請け合い(?)したものの、すぐには名案が湧いてこなかった。大体、悠介の周りにスト―カ―は勿論のこと、スト―カ―被害を受けた人もいなければ、そのような話も噂も聞いたことは無かったからだ。

 

「ちょっとネットで調べてみようか。何かヒントがあるかもしれないからね。」

スト―カ―と言う言葉で検索してみると、すぐに知りたい情報が見つかった。

「君の場合に該当するのは、繰り返しメッセ-ジを送ってくること、そして待ち伏せだ

な。」

読んでいるのは、ある県警ホームぺ-ジの情報だった。読んでいてやはりそうか、と唸った。悠介は美波にスマホの画面を見せながら言った。

 

「この情報によれば、『繰り返し』と『拒否』と言うのが鍵みたいだ。」

そこには、スト―カ―行為の例として『つきまとい、待ち伏せ等を繰り返し行うこと』、『あなたが拒否しているにもかかわらず、メッセ-ジ等を送付してくる』と書かれている。つまり今回のことはスト―カ―行為とは言えない、という事になってしまう。

「それじゃあどうしたらいいの?」

「まずは、美波ちゃんが彼に断りのメッセ-ジを入れることが必要になる。」

この言葉を聞いて、美波の顔が明らかに強張ったようだ。

「やっぱりやらないとダメだよね。」

イヤだけどやらなきゃいけないよ、と自分自身に言い聞かせ勇気づけている姿を見て、やるせない気持ちになってきた。しかしこれは絶対にやらなければならないことだった。

「問題はどういう文面にするかだけど、何かアイディアはある?」

彼女は首を強く左右に振った。何もないという事だ。

曖昧に断れば、最悪自分が拒否されていないと自分勝手に解釈される恐れがある。



悠介にはある考えがあった。相手に美波のことを断念させる効果がある反面、下手をすると相手を刺激しかねない可能性もあるのだが…。

但し、これには、美波の同意が必要になる。

悠介は切り出した。

「ベストとは言えないかもしれないけど、こうしたらどうだろうか。」

美波は黙って、彼がこれから言う言葉に全神経を集中させているように見えた。

「彼へのメッセ-ジに、君には好きな人、あるいは付き合っている人がいる、という事を知らせてやるんだ。そう仄めかすだけでも効果はあると思う。」

彼女が何か言おうとする前に、素早く言った。

「実際にいるかいないかはどうでもいいんだよ。いる、と言って断ることに意味があると思う。それで相手の出方を見てみよう。」

「でも、それでうまく行くかしら。実際にはそんな人いないから、すぐに嘘だと判ってしまうんじゃないかなぁ。」

「これで向うが納得いかないんであれば、ちゃんとしたスト―カ―行為という事になるからね。そうしたら警察に行こう。」

言ってから、しまった、と思って顔をしかめてしまった。

これでは今のまま怖い思いをして待っていろ、もしかすると同じような行為を繰り返すかもしれないぞ、とまるで彼女を怖がらせるだけでなく、絶望的な気持ちにさえさせているのではないのか?

やはり彼女の顔色は冴えない。これじゃあ何のためにあんな啖呵を切ったのか分からないじゃないか。

 

自分を叱りつけながら、悠介はずっと考え続けていたことをここで言うしかないな、と思い始めていた。これしか彼女を安心させる案は無いように思えた。

「今から君の好きな人を作ればいい。」

美波は驚いたようだ。

「もちろんそれは相手を欺くためのことで、本当ではない。だからと言って誰かに簡単に頼めるようなことでも無いだろう。もしかすると嫌がらせをされる恐れもある。」

もちろん、それだけでは済まないかもしれないが。

「だから、その役は僕がやる。勿論君がOKならばの条件付きだけど。」

     

照れ笑いを浮かべながら、ちょっとお道化気味に言った。少しでも場を和らげないと…。

幸いにも、昨日からゴールデン・ウィ—クが始まっているので、かなり体の自由が利く。彼女なんかいないのだから、暇はいくらでも作れるのが強みだ。

美波は何も言わない。同意したと解釈することにした。

第一にすぐやるべき事は、例の男に断りのメッセ-ジを送ることだ。文面は悠介が考えた。悠介の方が遠慮や忖度などせずに書けると思ったからだ。

彼は美波のスマホにメッセ-ジを書き終えると彼女に内容を確認してもらい、送信した。

2人は改めて見つめ合った。不思議なことに、あんなに読めなかった彼女の心の奥底が、今の悠介には手に取るように理解できるような気持ち、錯覚だろうか、になっていた。

やはり、何とかこの事態を乗り越えたいとする2人の共通した思いが、そう思わせているのかもしれない。

 

賽は投げられたのだ。もう後戻りはできなかった。

 

《つづく》

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