恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

第15話 君はもう一人じゃない

美波との待ち合わせ場所は、美波の通う高校と僕の大学とのほぼ中間にある、御茶ノ水にあるコーヒ-チェ―ン店にした。付き合っている訳ではないし、別にロマンティックなところで会う必要は無かった。

彼女から届いたメッセ-ジは「相談に乗って欲しいことがあるので、会う事出来ますか?」だったと思う。会って欲しい、には驚いた。電話では話せないことなのだろうが、あのことがあってからそれ程経っていないのに…。

 

-やっぱり、あれの返事かな?

 

店内を眺めてみて美里の姿がなかったので、入り口が良く見える空いていた小さなテ-ブルに腰かけて待つことにした。約束の時間にはまだある。

念のためメッセ-ジが来てないことを確認して店内を見回してみると、さっきあった空席は殆ど埋まってしまった。日曜の午後で天気の良い今日は、どこに行っても人だらけだ。

すると入り口に見慣れた顔が見えたので、彼女に見えるように右手を少し上げた。

今日の彼女は白のブラウスにすみれ色のフレア-スカ-トだった。よく似合っている。ウエストでキュッと締まっているのでスタイルが抜群だ。それになんとも可愛い

向かいの椅子を引いて腰掛けると、

「ごめんなさい、遅くなって」と言ったので

「遅れてないよ。丁度だ。」

「呼び出したりしてごめんなさい。」

「いいさ。どうせ暇だったから。」

どうも彼女は謝ってばかりだなぁ、と油断していたら、

「この前はハッキリ気持ちを整理して言えなくてごめんなさい。帰った後、凄く落ち込んじゃって、自分でも何がなんだか分からなくなってしまって…。」

ここで、彼女は話すのを止めてうつむいてしまった。という事は、今日会ったのは別件という事になるのだろうか?

 

「あのことは別に気にしてないよ。あの時言ったように僕が勝手に告白しただけだからね。でも、今日は何か別の件で相談事があるんだろう?」

「そのことなんだけど…。ある人から頻繁にメールをもらって、どうしていいか分からなくて。私の方からは何も返事を返していないわよ。でも、ついこないだ、悠介君のお宅に電話する前日だけど、友達と会った後に家の近くで声を掛けられたの。物凄く驚いたんだけど、その時は急用があると言って家とは反対方向に歩いて行ったの。一番近いメトロの入り口に逃げ込んだんだけど、このまま黙っていて大丈夫なのか心配で…。」

彼女の家は麻布近くの、坂とお寺が多い閑静な住宅街にあった。

 

「その人は男の人だね?いくつくらいの人なの?」

美波から聞いた話はこうだ。

その男は彼女が来年から通う大学の先輩で、今3年生。名前は向井健、向井不動産グル-プの御曹司だそうだ。美波から無視されたので、直接会いに来たという訳か。実力行使に出たわけだ。

 

-これはチョット厄介だな。

 

厳格に言えば、今の時点では、彼のしていることはまだスト―カ―行為とは言えないかもしれない。美波はハッキリ断ったわけではないし、その男は偶然道で出会ったと、しらを切れば何の罪にも抵触しないだろう。いや、この程度のことなら、日本中どこにでもある些細なことなのかもしれない。

かといって、このまま放っておくのは危ない気がする。

ただ一番厄介なのは、その男は自分がスト―カ―行為じみたことをしている自覚が無いのではないか? そうであれば今回のようなことはこれからもあるように思う。いやむしろエスカレ-トしていくかもしれない。

悠介は美波の顔をじっと見つめた。彼女も僕の目を訴えるように見ている。それはまるで、オオカミの遠吠えに怯えている子ウサギの目のようにも見えた。

    

                       

心なしかやつれているようにも見える。無理も無いか。

 

-可哀そうに。

 

彼女はここ数日、見えない恐怖と独りで戦ってきたに違いない。それを誰にも告白することが出来なかったばかりか、一人ぼっちで抱え込み悩んでいたのだろう。

 

-電話をもらった後、すぐに会ってあげるべきだったな。

 

「一つ確認したいんだけど、美波はその男とは今後一切かかわりたくはないという事で間違いない?」

「はい。勿論そうです。」

彼女の声は緊張からか、少しかすれていた。顔は、血の気が全くなくなり、この場で貧血を起こして倒れてしまいそうに蒼白だった。

そんな彼女をいたわるように、努めて明るい声で言った。

「分かった。もう大丈夫だよ。じゃあ、これからどうしたらいいか2人で考えることにしようか。君はもう一人じゃあないよ。

 

彼女の綺麗な顔が歪んだと思ったら、大粒の涙が止めどもなく頬を流れ落ちていった。涙を拭おうともせずに、ただ涙が流れ落ちるのに身を任せているように見えた。

そう、彼女の顔を覆っていた魔法の仮面が、「君は一人じゃない」という彼の呪文で、ついに溶けだしたのだった。

 

悠介は突然、この場で彼女を抱きしめてあげたい気持ちに襲われた。もし、2人の間にさえぎる物が無く、誰もいない場所であったならば、何の迷いもなく彼女を抱きしめていたに違いない。

誓ってもいい。

抱きしめると言っても、それは恋人同士のものというより、恐怖で震えているか弱いお姫様を外敵から守ってやりたいという、ナイトのような気持ちだったと思う。

不思議なことにその時の悠介は、彼女が自分をどう思っているかというのは、もうどうでもいい些細なことのように思えた。ここしばらく、そんなことでモヤモヤしていた自分が何とも馬鹿らしく情けない男に思えてしょうがなかった。

その時の悠介には、彼女を守ってやらなければ、という使命感に似た気持ちがだけが彼を支配していたのだ。

 

-君はもう一人じゃない。

 

今度は心の中で彼女に繰り返した。

 

《つづく》

 

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