恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

第38話 梅雨空も 美里の心に虹かかる

どうも今年の梅雨は当たりのようで、毎日毎日雨がしとしと降って気持ちが塞いでしまいそうだ。きょうも朝から降り続いた雨が、夕方近くなって霧雨になっている。

 

気持ちが憂うつなのはそればかりではない。雨の日は花の売れ行きがイマイチなのだ。ただでさえ雨の日には荷物が多めになるので、更なる荷物になる花を買う客が少なくなるのも頷ける。余程の花好きなら別だろうけど。

店先に出て今日は暇だなあ、なんて思っていたら欠伸が出てきてしまった。思わず周りを見回したが、誰もいないのでホッとする。

そんなことを考えていたら、右手から自転車が近づいてくるのが見えた。結構スピ-ドが出ているようで危ない。

そう言えば初めて悠介と出会った時も、自転車を避けた時にバランスを崩したら悠介が腰とお尻を支えてくれたんだっけ。

-もうあれから2ヶ月が経ったんだ。

 

出会って普通に付き合うようにはなったが、どうもこの頃は会ってももう一つウキウキしてこない。初デ-トの時などはもうメロメロだったことを思い出して、そのギャップに何か寂しいような物足りないような複雑な気分になった。

-まさかもう倦怠期になっちゃったなんてこと、ないわよね?

 

やれやれ、とため息をついていたら、右肩の辺りをチョンチョンと叩かれて飛び上がるほどびっくりした。

これは悠介だな、と思って技をかけてやろうか、などと悪戯心が起きたが…。

振り向いて、それこそ心臓が飛び出るのではないか、というほど驚いてしまった。

そこには何とあの王子様がいるのだ!

    

今日は髭をきれいに剃ってかなりラフな格好をしているわ!

「こんにちは、驚かして申し訳ない。声を掛けたんですが、気付かないようだったので失礼しました」

相変わらずスキのない挨拶だわ、なんて思っていたら意外なことを言われた。

「実は今日はお願いごとがあってきました。近々母の退院祝いのパーティ―を行うことになったのですが、花好きの母が、家中に花を置いて欲しいと言い出して駄々をこねるんですよ。それで申し訳ないのですが、事前に家に来ていただいてどこに何の花を生けたらいいか、見ていただきたいのですが如何でしょうか?」

何という幸運なのだろう‼ 店にとっても良いことだけど、それ以上にこの人のことをもっと知ることが出来るなんて‼

そんな喜びをおくびにも出さないで、美里は落ち着いていう。

「まあ、そうですか、ありがとうございます。それでは日時やご予算など詳しいことを承りますので、店の中にお入りいただけますか?」

ドキドキしながらも、しっかりと応対できたことにホッとした。

 

彼を店の中に招き入れ、母に事情を話して『商談』を進めることとなった。

注文書に書き込んでいる名前は『西園寺文麿』、住所は『目黒区青葉台』。都内でもトップ3に入る超高級住宅街で、たしか代官山と中目黒の近くにあるところだ。

 

-やっぱり良家のお坊ちゃんだったのね。

 

美里はちょっと心が醒めていくような気持を感じた。やはり自分とは住む世界が違う人だったんだわ。美里がいくら憧れても好きになっても、叶うはずなんか無いだろう。

 

「お祝いの日は1週間後という事なので、明日にも下見に伺わせていただきます。」

有難うございました、と母がお礼を言っているので、私も同時に頭を下げた。

「それでは明日お願いいたします。」

そして私に向き直り、

「あなたにも是非来ていただきたい。お待ちしていますよ。」

そう言うと、ゆっくりとした足取りで店を出て行ってしまった。

 

えっ、私も? 

 

一度は覚めかけた心ではあったけれど、彼のたっての願いとあれば行かないわけにはいかない。商売第一だし、これからもお得意さんになってくれるかもしれないし、それに何といってもお金持ちの邸宅を覗くのも悪くはないわね。などと理屈をこねまわして臆病な心に勇気の水を吹きかけた。

たとえ住む世界が違っても、一時でもいいから優雅な豪華な雰囲気に触れていたい、浸っていたい、女の子ならだれでも感じる、憧れることなのではないだろうか?

明日王子様の家を訪ねるのが、俄然楽しく思えてきた。

 

「ねえ美里、今日はもう仕舞にしちゃおうか? もうお客さんも来ないだろうし。早じまいして明日の支度でもしようかね。明日は忙しいだろうから。」

母も私同様何かウキウキしているようだ。こういう乙女のような母を私は嫌いじゃないわ、と美里は思った。

さっきまで降っていた霧雨は止んだようだ。店先に出て空を見上げると、大きな虹がかかっていた。

 

《つづく》

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第37話 助けた女性は超セクシ—! 

悠介はJR山手線の最寄り駅で降りて、大学キャンパスへ早足に急いでいた。

新宿駅で15分ほど足止めを食ったためだが、なんとか次の講義には間に合いそうだ。

ほんの少し前に起こった出来事を思い出そうとして、柄にもなく顔を赤らめてしまった。

 

救護室に彼女を運び込んで寝かせてから、ホッと大きな息を吐いて彼女をあらためて見てみた。実はどのような女性か顔も服装もはっきり見ていなかったのだ。

満員電車内で起こったことで、彼女の顔を見られなかったし、抱きかかえてからは(初体験だったこともあり)女性の体を何処かにぶつけないように細心の注意を払っていたせいか、そのような些細なこと(!)に思いが及ばなかったという事らしい。

両手の感触から、骨細のスレンダ—な女性というのは分かっていたが…。

 

その女性を見て自分は生唾を飲み込んだと思う。確かにその音を聞いた(!)。

彼女はブルーデニムのミニスカ-トを着て(ちょっと頭を低くすれば、奥まで見えてしまいそうな危ないものだった!)、上は白のキャミソ-ルという格好だった。キャミソ-ル姿というのは何でこんなにもセクシ—なんだろう!

              

それだけではない。キャミソ-ルの胸のあたりに何かポツンと突き出ているようなものがある。もしかするとと思ったら、それは立っている乳首ではないのか? 乳首が見えるのだ! 単に見える、というよりは自己主張している、というのがふさわしいようにハッキリ見えているのだ。

-えっ、ブラついてないの⁉

つまりノーブラということなんだろうか⁉

それは何ともセクシ—なようでもあり、美しいもののようにも見えた。そう、彼女のそれは本当に美しかったのだ!

顔は横を向いているので横顔しかよくはわからないが、鼻筋が通った綺麗な顔をしているように見える。若い女性だ。いっても22-23歳くらいか? いや、20歳くらいかも…。

 

悠介は女の乳房に触れたことがある。女を抱いたこともある。セックスをしたこともある。でもそれはそういう特別な場所で経験したことで、普通の女性のそこは見たことはあっても、触ったことはなかった。

だが、その女性の自己主張の強い乳首を見ていたら、何故か無性に触りたくなってしまったのだ。美波や美里に会った時には感じなかった『気持ち』だった。彼女たちと会っている時には理性で押さえつけていたものが、不意に見てしまった乳首に、正確にはキャミソ-ルから飛び出ている乳首だが、不覚にも頭が体が自然と反応してしまったのかもしれない。

 

-男のこういう気持ちを、女の人は理解できるのだろうか?

 

そう思ったが、そんなことはないだろうと思い直した。男の自分が説明できない気持ちを、自分の身体ではない女性が理解できるとは思えない、と考える方が自然だからだ。

 

-こんなことを美波や美里に話したら、軽蔑されるだろうな。

 

長いこと見とれていたのかもしれない、オホン、という駅員さんの声に我に返った。それで顔が真っ赤になってしまった。もし悠介が一人でいたなら、触ってしまいたい触れてしまいたい欲求に逆らえたかどうか…。それは絶対に絶対に無いだろうが…。

駅員さんは、女性の身体に毛布のようなものを掛けた。まるで容赦ない卑猥な視線を注いでいる若者の目から守るかのように。

 

暫くして女性は気分が落ち着いてきたのか、意識が戻って来たようだ。ベッドの上に腰かけては何度も礼を言ってきた。単なる貧血らしい。

悠介は「いえいえ、大したことではありません。」

女性の顔を見るのが何ともなく気恥ずかしく思われ、両手を左右に振りながら顔を隠して言った。

その女性が奇麗だから助けたのではない。相手がおじいさんでもおばあさんでも助けた。そういう事だ。

その女性は何か言いたそうだったが、彼は

「大学の講義に出なければならないので、失礼します」

といって救護室を出た。

ちょっと前まではあんなに疲れていたのに、今は何故か疲れを全く感じなくなっていた。一仕事終えたような一種爽快な気分だったのだ。

 

《つづく》

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悠介、人生初のお姫様抱っこ! 第36話

今日も相変わらずの雨降りだ。

中央線の荻窪駅で次の電車を待っているが、なかなか到着しない。また事故かなんかあったのかもしれない。電車は来ないのに、人はホームにどんどん入ってくるので溢れんばかりの人人人である。

ホ-ムが人ではちきれそうになった時、やっと電車が入ってきた。

超満員状態の車両から降りる人はほとんどいないのに、乗りたい人は山ほどいる。

そうすると、乗りたい人はある程度弾みをつけて車両に乗り込んでいく。後ろから押されるのに身を任すのが最も安全だろう。

やっと車内には入れたものの、つり革や手すりは近くには無い。つまり浮草のようにゆ-らゆらと波間に漂うように身を任せるしかない。

 

いつの間にか電車は発車して次の駅についた。この駅でも降りる人はいないのに、5,6人は乗り込んできたようだ。もう限界だろう。

もう直ぐ中野駅だ。そこはメトロや総武線などへの乗り換え客がいるから、降りる人は結構いるはずだ。中野に着いたらどっと人が降りて、車内はスキスキになった、と思ったのもつかの間、ドドドっとそれまで以上の人が乗り込んでくるものだから、傘がどっかに行ってしまった…。

-やばいぞ、これはやばいぞ。

車内は全く身動き一つできない壮絶な混雑だ!

あの例の痴漢騒動の悪夢以来、悠介は出来る限り両手を胸の前に置くようにしていたが、この日は想定外の混雑なので、全く身動きできない状態だった。

 

中野駅を出ると、新宿まで約10分間ノンストップで2駅飛ばしていく。

超過密状態とはいえ、一人ひとりがなんとか最適な環境を見つけ出すと、安心するせいか何となく眠気を催してしまう。思わずこっくりしていると、何か異様な雰囲気に気付いた。悠介の喉の辺りに女性の頭がそっくり収まっており、その女性は生きているので当然ながら息を吸い息を吐く。その吐く息が喉から顎、首筋を微妙にリズミカルにくすぐるのだ…。

-ううッ、くすぐったい…。

          

しかしどういう訳か、その女性の息使いは段々激しくなっていくようだ。

-ウン?

どうもおかしい。そう思って下を見ようとするが、その女性の頭が邪魔して全く様子がつかめないのだ。

悠介は思い切って声を掛けてみた。もしものことがあるので、囁くように聞いてみた。

「あのう、大丈夫ですか? 気分悪いですか?」

デリカシ-のない聞き方だったかもしれないが、こちらもひーひ-言っているので勘弁してもらおう。

もう一度声を掛けてみる。今度は少し大きめの声で。

「大丈夫ですか?」

返事はない。返事はないが、彼女は身体全体を完全に悠介に預けていた。どうも自力では立っていられないようだ。体調が良くないのはもう間違いない。そう判断して、彼は落ち着いて、しかし大きな声で

「女性がひとりご気分が悪いようですので、次の新宿で降ろします。ただ、自力では歩けないようなので、皆さんのご協力をお願いします。」

その時、車内アナウンスがあと少しで新宿駅に到着することを告げている。

-助かった~。

実際もう限界だった。人が吐く息で車内はムンムンするは、あっちに押されこっちに押されて体中が痛いが、それにもまして女性の全体重を受け止めているので、暑いし重いしで心底しんどい状態だった。

電車は新宿駅のホームに止まると、あたかも堰が決壊したように大量の人が吐き出されていく。その濁流にのまれないように、少しずつ女性をホ-ムに運び出していく。

近くにベンチが無いか探したが、どうも見つからない。

 

-こうなったら、こうするしかないな。

 

腹を決めて彼は女性を、よいしょっと、抱きかかえた。いわゆるお姫様抱っこである。

 

-ウウー、重い!!

 

抱きかかえている女性はぐったりしており、両腕もだらりと垂れ下がっているので、何とも重く感じられる。

その時、誰かが悠介の肩を叩いたのでびっくりした。振り返ると、そこに中年の女性が立っており、抱き上げている女性の上に赤色のバッグを置いた。

「この人のものだと思うよ。」

「どうもすみません。」

というと、その女性は

「偉いね、君は。学生さんだろうけど、この女性の面倒見てやってね。じゃあ。」

彼女は急いで今まさに発車しようとしている電車にするりと飛び乗った。

 

女性を抱きかかえている姿は目立つだろうし、行きかう人の邪魔になるのか、駅員が何人か集まってきたようだ。これから何が始まるんだろうな、という不安に似た気分に襲われた。

ただ、どうも救護室か何処かに行くまで、悠介が抱きかかえていかなければいけないようだ。どうでもいいけど両腕が痺れてきて、おまけに頭はガンガン、身体はフラフラしてきたようだ。自分も倒れてしまわないよう、十分注意しながら駅員の後について行った。

 

-もうちょっと体を鍛えたほうがいいみたいだなぁ。

 

何日か前にも似たようなことを考えたような気がしたが、その時の悠介の頭の中は白い霞がかかったように、何も思い出すことができなかった。

 

《つづく》

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親友たち(3)美里の運命の人 第35話 

美里にとってこの週は話題に事欠かない1週間だった。

まずは悠介とのデートの後の襲撃事件、そしてあのイケメンの男の人のこと…。

-今回も真理に話すことがいっぱいだわ♪

ルンルン気分とはこのことだ。

真理のマンションは、居心地がよく落ち着いて話ができるので気に入っているのだが、そう度々では申し訳ない。そのことを言うと、

「そんなことないよ。全然迷惑じゃないから。でもそう思うんだったら、コンビニでなにかおつまみでも買ってきてよ。そう、それがいいわ!」

という事で、また真理のマンションになってしまったのだ。

 

-さてと、何から話そうかしら? 襲われたことは興味深い(!)事件ではあるけれども、あまり話せる内容はないから、やっぱりあの人のことかな~。

 

「実はね、この前凄くかっこいい人に会ったの。店に花を買いに来たんだけど。ううん、初めてじゃなくて2回目。入院されているお母様のお見舞いなんですって。それがとにかく素敵な人なのよ💗」

美里のうっとりした目を嬉しそうに見ながら、真理はそれを茶化すように言った。

「はいはい、素敵な人だというのは分かりましたよ。ではどういう風に素敵なのか説明して?」

 

美里はその男、仮にXとしよう、Xがどんなに優しく、どんな顔をしてセクシ—な声で話すか、服装のセンスが良いだの育ちが良いだの、Xの魅力を余すことなく熱く話していた。

じっと耳を傾けていた真理は、美里がXの魅力に一段落した時に、

「美里は運命の人に出会ったのかもしれないわね。」

「えっ、運命の人?」

「そうよ。夢にまで見た憧れの王子様に出会ったということよ。」

「夢にまで見てないわよ。」

「ただの例えよ、それは。」

「王子様かぁ。そうかも知れないわね。」

と言って美里はちょっと真面目な顔になった。

「王子様とお姫様の話は、ハッピ-エンドなの、それとも悲恋?」

「う~ん、私の知ってる限りではハッピ-エンドじゃないの? やはりお伽話だから。」

「そうか、じゃあ次に会う時にはちょっとお洒落な服装にしなきゃなぁ。お姫様らしい服着て、そうそう、美容院にもいったほうがいいかな?」

「待ってよ美里! あなた彼が今度いつ来るか分からないんでしょ? それじゃあ準備のしようがないじゃないの、残念でした、ウフフっ。」

 

そうだ、と言いながら真理が訊いてくる。

「それはともかく、悠介さんに会ったんでしょ? どうだったの?」

「そうねぇ、別になんか特別面白いことも無かったかな。映画見て食事して、あ、そうそう、食事した帰りに2人の暴漢に襲われたのよ! でもね、私が撃退してやったわ。予想してなかったことが起こったからかしら、そいつらは慌てふためいて逃げて行ったわよ」

「美里の合気道が火を噴いたわけね。それじゃあ暴漢が逃げるのは当然だわ」

「でもねぇ、か弱い乙女に助けられるなんて、悠介さんて頼りないんだから。それに何処をとってもXさんには敵わないしなぁ」

「いくら何でもXさんと比べたら悠介さんが可哀そうよ。学生と社会人とを比べたら、人生経験がまるで違うんだから。でも、その人幾つぐらい?」

「う~ん、アラサ―かしら? 30はいってないと思うけど。」

「そうしたら10歳近く離れているのね、悠介さんやあなたとは。だったら悠介さんに勝ち目はないわね」

「でもさぁ真理。今度会ったらどうしたらいいかしら? すこしセクシ—な格好にしたほうがいいかな? でもそんな服もっていないしなぁ…。もしデートに誘われたらどうしよう💗」

 

「ところで、その人の名前は聞いたの?」

「まだよ。お客さんとして2回会っただけなのよ。名前を聞けるほど親しいわけじゃないし。ただ、きっとカッコいい名前だと思うわ」

「そう、じゃあ今度会った時に訊いてみたら? フルネームじゃなくてもいいのよ、上でも下でもいいから…」

「そうよね。名前が分からなければ、どう呼んでいいか分からないもんね」」

 

先ほどまでは恋する美里を優しく見守っていた真理であったが、今真理の顔はすこし心配そうな顔に変わっているみたいだ。

 

-美里はこういう優しくて男らしい人に弱いからなぁ。大丈夫かしら…。

 

《つづく》

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親友たち(2)夜道の防犯対策はアレ  第34話 

悠介はテーブルに乗っているカフェラテの模様をぼんやりと眺めていた。

        

            

-俺は一体何をやってるんだろう。変ないざこざに巻き込まれて勉強もろくにできていない。最低限のことしかできていない。

 

1か月ちょっとで期末試験が始まる。今のうちから着実にこなしていかなければ、試験の結果はやばいことになるかもしれない。焦りはあるのに気持ちがついて行かない、という最悪の状態だ。

今の悠介の頭の中を占めているのは、襲撃されたことももちろんだが、これからどんな厄災が自分に迫ってくるのか、考えるだけで気持ちが落ち着かない。正直に言えば怖いのである。

2回で終わるとは思えなかった。でも次はどんな手を使ってくるか? それもそうだが、いつだろう?

この頃は勉強に身が入らないばかりか、始終イライラしているように思う。

-かなり参っているのかなぁ。

 

すると、ちりんちりん、と鈴の音が聞こえてきた。誰か入ってきた。そう、この店はレトロな喫茶店なのだ。空いていることが多いので、キャンパス内で話せないことでもこの店ならばまず人に聞かれることはない。

 

「悪りい悪りい、ちょっと遅れちゃった。よいしょッと。」

         

入り口から遠い奥のテーブルの向かい側のシートに腰かけて、純一は訊いて来る。

「なんか陰気な顔してるね、君は! 彼女ともう別れ話になったのかい?

それとも美波ちゃんとなんか進展があったのかな? もてる男はつらいねぇ。」

「また襲われた。」

「エっ? お前が? それとも…」

「俺だよ。一昨日の土曜の夜だ。実は美里ちゃんと歩いていたら、2人組の男に襲われたんだ。俺に向かって殴り掛かってきたんだけど、彼女が合気道でぶっ飛ばしてくれたんで無事だった。」

「ふむ、強い女を持つと心強いな。で、なんで美里ちゃんといる所を襲われたんだよ?」

「良くはわからんけど、美波と間違えたんだろうと思う。」

「狙っている男がまさか二人の女と会っているなんて、思いもしなかっただろうからな。ふむ、それで襲った男たちはどうした?」

「投げられたら一目散に逃げて行った。」

「襲われたのは土曜日だよな。大学に行く日はキャンパス内でお前を見付けるのは難しいから、講義のない土曜に後をつけた…。つまりお前の自宅は見張られているという訳だ。で、俺にどうして欲しいんだ? 女と会う時に護衛を頼む、というのならお断りだぞ。」

今日の純一は何故かつっけんどんで冷たい気がする。

「うん、もちろんそんなことは頼まないさ。ただ、これからどんなことが起きるか、いや起きると決まったわけじゃあないが、2回も襲われたとなるとまた有る、と考えるべきだろう。だから…」

「あのなぁ、お前が不安に思う気持ちはよく分かる。分かるがだ、一番最初に手をつけなきゃいけないのは、誰と付き合うかだ、とは思わないか? 両てんびんにかけていることが美里ちゃんに知られてみろ、軽蔑されて振られた挙句にぶっ飛ばされるぞ、間違いなく。俺は美里ちゃんの親友の真理ちゃんと付き合っているから、どうしても美里ちゃんに味方したくなる。だから悪い事は言わない。従妹の美波ちゃんとはもっと距離をとったほうがいいぞ。」

「イヤそうなんだけど、でもちょっと、困ったことに…。」

「なんなんだよ、お前は! はっきり言えハッキリと!」

興奮して声が大きくなったので、悠介は周りを見回したが客が少ないせいか、こちらを見ている人はいないようだ。

「実は美波に告白されてキスまでされてしまって…」

向井に座っていた純一がすくっと席を立つ気配がしたので、咄嗟に危険を察して両手で顔の前をガードしていた。

しかし殴られなかったようだ。

「呆れたやつだな。いや大馬鹿野郎だよ、お前ってやつは!」

「だから美波とはそれ以来会っていないよ。当分会うのは控えようと思っている。」

「当たり前だ。そうしないと取り返しのつかないことになるぞ。それにもう美波ちゃんの護衛は必要ないかもしれないぞ。」

「うんうん、俺もそう思ってるとこだ。」

「つまり向井のターゲットはお前ひとりと思っていい。」

「・・・」

「だからお前は他人のことより、自分のことを心配したほうがいいぞ。出来る限り土日には出歩かない。帰りは夜道に注意する。お、そうだそうだ、良いことを思いついたぞ! あれを身に着けたほうがいいかもな。分かるか、女性が夜道を歩く時のアレだよ…。」

「アレ?」

「そう、痴漢撃退用の防犯ブザ-だよ! あれを身に付けていれば暴漢恐るるに足らずだ。」

物音ひとつしない静かな夜道に、けたたましいブザ-の音が響き渡る光景を思い描いて、思わず身震いがしてきた。

 

-なんか女性になったような気分だな。

 

 

《つづく》

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親友たち(1)初キスの熱い想い 第33話 

「エ-っ、彼に告白して、すぐにキスまでしちゃったの? ちょっと待ってよ、なんか展開が早すぎない? やだぁ、そんな感じだったらあっという間に最後までいっちゃうんじゃないの?」

「う~ん、それはないとおもうけど…。これ以上はダメって言うから」

「甘いなぁ、美波は。男って、そういう時は我慢できなくなるって言うじゃない?」

「彼は大丈夫よ。彼はそう言う人じゃないから」

ヤレヤレ、と言いながら、周りに注意しながら顔を近づけて小声で訊いて来る。

「それでどうだった? 好きな人との初キスの味は?」

祐子は興味津々に聞いてくる。楽しそうだ。

美波はウフフっと含み笑いをしながら、

「どうだったといわれても、どうだったのかな? 咄嗟にキスしたんで、ゆっくり味わっている暇がなかったんだけど(笑)、何か凄く熱かったわ。彼の唇も私のも。」

「熱かったなんて、いやだわ。こっちまで熱くなってきちゃうじゃない!」

と言って、右手で団扇を扇ぐようにパタパタと振って見せた。

 

「でもさあ、もしも美波のお母さんがいなかったら、もっと先までいっちゃったんじゃないの? 彼が優しいからって言っても、男は男よ、我慢できないらしいからね」

それもあるかもしれない。しかし美波には自信があった。

「さっきも言ったじゃない。悠介くんは大丈夫なのよ。彼は私のことを大切にしてくれるから。信じているの」

「まあ、凄い惚れようね? 暑い暑いわよ! でもいいなあ。私にも美波のような彼氏が欲しいな。飢えたオオカミみたいな男じゃなくて、優しい男が。誰かいないかなぁ」

 

美波と親友の祐子は、学校帰りにミスタ-ドーナッツで、ドーナッツを食べながらカフェオ-レを飲んでいるところだ。

まだ6月にはなっていないのに、まるで梅雨のような空模様が続いている、陰鬱でちょっと肌寒い午後だったが、2人にはそんな天気なんかお構いなしに熱い話題で沸騰していた。



「そうすると美波と悠介さんは両想いという事になる訳でしょ? そうしたら、これからは手を繋いだり、肩を組んだり、背中や腰に手をまわしたりってこともするんだ。凄いね!」

「そんなの人前ではしないわよ。恥ずかしいし…」

「でもさぁ、まだ先のことかもしれないけど、将来一緒になろうとかも考えている訳?」

「う~ん、どうなんだろう。私にもよく分からないなぁ。そういうのはまだ早すぎるんじゃあないかしら。それにね、悠介くんは少し優柔不断のところがあるから、私の方が積極的にならないと、前に進まないんじゃないかなぁ」

「あのさぁ、一緒になったら、悠介さんは絶対に美波の尻に敷かれるね(^_^)。面白そう!」

「やだ、やめてよ! 私たちまだ一緒になるって決まったわけじゃあないし…」

「でもさあ、美波たちは従妹同士でしょ? 今はお母さんは知らないかもしれないけど、悠介さんとのことが判ったら、どうなっちゃうのかな? なんかすごく恥ずかしくない、違う?」

美波もそこはちょっと気になっているところなのだが…。

-お母さんに知られたら恥ずかしいなぁ…。

ただ、美波には母は絶対に反対はしないという確信に近いものがあった。むしろ良かったねェ、と歓迎されるような気がする。根拠はないけれど美波の勘だった。

 

そこで祐子はちょっと真剣な顔になって、例のことを聞いてきた。

「向井の件はどうしちゃったの?」

美波も少し緊張が走る。

「今のところは別に変ったことは起きてないみたいよ。悠介くんからも何も言ってこないし」

「良かったじゃない! 向うもきっと諦めたのかもね」

「そうだといいんだけどねぇ」

何も起きていないのだからそれはそれでいいことなのだが、どうも美波には何も起こっていないことが薄気味悪く感じられた。

-もう何も起こりませんように…。

 

 

その噂の男は、スマホに文字を打ち込み1枚の写真と共に誰かにメッセ-ジを送った。

どうやら新たな刺客が放たれたようだ。

しかし、どういう訳かこの男がやること、そしてそのやり方には緻密さや知性が感じられないのだ。一流私立大学に通いながら、あまり熱心に学業に精を出しているとも思えない。しかしだからと言ってこの男を見くびるのは危険かもしれない。

 

執念深さと酷薄さにおいては、他の追随を許さないほどの男と言われている。親の資金援助と警察への口利きや世間への口封じが無ければ、通っている大学はもとより世間からも全く見放されていたに違いない。そういう危ない男なのである。

 

今度の刺客はどのような奴なのだろうか? 悠介と美波に新たな危険が迫っているようだ。

 

《つづく》

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恋する女の顔―美里の熱い想い― 第32話

5月も20日を過ぎると天気は曇りや雨の日が多くなる。

梅雨の走りというらしいが、蒸し暑くじめじめしてまるで梅雨みたいな気候だ。

これからの季節に花屋に入荷する花の代表格と言えば、やはり紫陽花だろう。雨に打たれて庭に咲いている紫陽花には落ち着いた味わいがある。

     

 

もし切り花にするときは注意が必要だ。茎を切って茎の間にある綿みたいな繊維を取り除いてやることが長持ちする秘訣なのだ。

でも、今の季節は紫陽花だけが花ではない。

 

そんなことを思っていたら、お客さんが来たようだ。

店番を手伝っている美里が、顔を上げて笑顔でその客を迎えた時、思わず他の客に対するのとは違う、ちょっと馴れ馴れしい言葉が出てしまった。

「あら、あの時の方ですね。いらっしゃいませ。今日もお見舞いに行かれるんですか?」

まるで、待ち焦がれた人がやっと現れた時のような、懐かしさや嬉しさ、安ど感が入り混じった複雑な気持ちだった。

「覚えていてくれたんですか。嬉しいなぁ。そうなんです、今日も母を見舞いに行きますので、今の季節に合う花を選んでいただけますか?」

「もちろんですわ。ええと、お母様は…。」

覚えていますよ、お母様は華やかで気のお強い方だとか。それならばこれがお似合いかもしれない。

 

「この白い花は如何でしょうか? 『カラ―』という名の花ですが、とても個性の強い花なので、この花だけまとめて花瓶に生けられては如何でしょうか?」

 

「この花だけですか? ちょっと寂しすぎませんか?」

「いえ、この花は主張が強いので、他の花とはあまり相性は良くありません。他の花が色あせて見えてしまうようです。でもこの白い花だけでは、という方には何かグリ-ンものを合わせることがいいかと思います。」

「分かりました。ではこの花を適当な本数選んでいただいてください。母は気の強い人ですから、気に入るんじゃないかと思います。」

そう言ってから、そうそうと付け足すように

「この前に選んでいただいた花束ですが、母が大層気にいりまして、『いったい誰が選んだの?』って大喜びでした。」

「そうですか。気に入って戴けて私も嬉しいです。」

心の中で「やったわ!」と叫んでいた!が表情には出さない。

 

注文の花束をその男に渡しながら、美里はちょっと迷ったが、思い切って尋ねてみることにした。この人の顔からそれ程重苦しい雰囲気を感じられなかったからだが…。

「あのう、不躾なことをお聞きしますが… お母様のご容体は如何なのでしょうか?」

言ってしまってから、やはり尋ねるべきではなかったと首を縮めてしまった美里であったが、

「ああ、もう直ぐ退院できそうです。なのでこちらで花を選んでいただくのもこれが最後かもしれません、残念ですが。」

え、そうなんですか、と言おうと思ったが言葉に出ることはなかった。

 

-じゃあ、この人とはもう2度と会うことは出来ないのかぁ。だって、『あなた』がここに来てくれなかったら、私はあなたに会うことすらできないんだから…。

 

美里はそう声に出して訴えたかったくらいだ。

無意識のうちに落胆の表情が顔に出たのか、その人はそれを素早く見て取ったかのように、

「ここは時々通りかかるので、その時はあなたの顔を見に寄らせてもらってもいいでしょうか? あなたがご迷惑でなければですが。」

この予想外の彼の言葉に美里は、自分の顔がぱっと華やぐのが分かった。小躍りせんばかりの喜びを胸に隠して。

当然ながら、美里に断る理由などないに決まっている。

「どうぞ。お気軽にお寄りになってください。」

その声は嬉しさのせいか、チョッと上ずってしまったようだ。

-落ち着いて。

と自分に言い聞かせる。

 

「では、失礼します。」

美里は店を出ていくその男を名残惜しそうに見送ったが、その去っていく姿には寸分の隙も無かった。

姿だけではなく、顔の造形も声も仕草も完璧と言っていいほどのいい男である。

 

-王子様みたい。女ってこう言う人に憧れちゃうのかなぁ

 

そう、憧れの人は王子様だわ、自分とは住む世界が違うのよ、と自分の思いをぎゅっと押さえつけようとしたその時、美波はハタ、と気がついた。

たしか彼はこう言ったのよ。「あなたの顔を見に」来ると。

 

思い出したこの言葉に、美里の胸はじんじんと熱く燃え上がり、顔が火照るのを感じていた。

 

-こんな感じになったのは初めて…。

 

美里のそれは、誰が見ても恋する、いや、恋焦がれる女の顔そのものであった。

 

《つづく》

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