恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

悠介、人生初のお姫様抱っこ! 第36話

今日も相変わらずの雨降りだ。

中央線の荻窪駅で次の電車を待っているが、なかなか到着しない。また事故かなんかあったのかもしれない。電車は来ないのに、人はホームにどんどん入ってくるので溢れんばかりの人人人である。

ホ-ムが人ではちきれそうになった時、やっと電車が入ってきた。

超満員状態の車両から降りる人はほとんどいないのに、乗りたい人は山ほどいる。

そうすると、乗りたい人はある程度弾みをつけて車両に乗り込んでいく。後ろから押されるのに身を任すのが最も安全だろう。

やっと車内には入れたものの、つり革や手すりは近くには無い。つまり浮草のようにゆ-らゆらと波間に漂うように身を任せるしかない。

 

いつの間にか電車は発車して次の駅についた。この駅でも降りる人はいないのに、5,6人は乗り込んできたようだ。もう限界だろう。

もう直ぐ中野駅だ。そこはメトロや総武線などへの乗り換え客がいるから、降りる人は結構いるはずだ。中野に着いたらどっと人が降りて、車内はスキスキになった、と思ったのもつかの間、ドドドっとそれまで以上の人が乗り込んでくるものだから、傘がどっかに行ってしまった…。

-やばいぞ、これはやばいぞ。

車内は全く身動き一つできない壮絶な混雑だ!

あの例の痴漢騒動の悪夢以来、悠介は出来る限り両手を胸の前に置くようにしていたが、この日は想定外の混雑なので、全く身動きできない状態だった。

 

中野駅を出ると、新宿まで約10分間ノンストップで2駅飛ばしていく。

超過密状態とはいえ、一人ひとりがなんとか最適な環境を見つけ出すと、安心するせいか何となく眠気を催してしまう。思わずこっくりしていると、何か異様な雰囲気に気付いた。悠介の喉の辺りに女性の頭がそっくり収まっており、その女性は生きているので当然ながら息を吸い息を吐く。その吐く息が喉から顎、首筋を微妙にリズミカルにくすぐるのだ…。

-ううッ、くすぐったい…。

          

しかしどういう訳か、その女性の息使いは段々激しくなっていくようだ。

-ウン?

どうもおかしい。そう思って下を見ようとするが、その女性の頭が邪魔して全く様子がつかめないのだ。

悠介は思い切って声を掛けてみた。もしものことがあるので、囁くように聞いてみた。

「あのう、大丈夫ですか? 気分悪いですか?」

デリカシ-のない聞き方だったかもしれないが、こちらもひーひ-言っているので勘弁してもらおう。

もう一度声を掛けてみる。今度は少し大きめの声で。

「大丈夫ですか?」

返事はない。返事はないが、彼女は身体全体を完全に悠介に預けていた。どうも自力では立っていられないようだ。体調が良くないのはもう間違いない。そう判断して、彼は落ち着いて、しかし大きな声で

「女性がひとりご気分が悪いようですので、次の新宿で降ろします。ただ、自力では歩けないようなので、皆さんのご協力をお願いします。」

その時、車内アナウンスがあと少しで新宿駅に到着することを告げている。

-助かった~。

実際もう限界だった。人が吐く息で車内はムンムンするは、あっちに押されこっちに押されて体中が痛いが、それにもまして女性の全体重を受け止めているので、暑いし重いしで心底しんどい状態だった。

電車は新宿駅のホームに止まると、あたかも堰が決壊したように大量の人が吐き出されていく。その濁流にのまれないように、少しずつ女性をホ-ムに運び出していく。

近くにベンチが無いか探したが、どうも見つからない。

 

-こうなったら、こうするしかないな。

 

腹を決めて彼は女性を、よいしょっと、抱きかかえた。いわゆるお姫様抱っこである。

 

-ウウー、重い!!

 

抱きかかえている女性はぐったりしており、両腕もだらりと垂れ下がっているので、何とも重く感じられる。

その時、誰かが悠介の肩を叩いたのでびっくりした。振り返ると、そこに中年の女性が立っており、抱き上げている女性の上に赤色のバッグを置いた。

「この人のものだと思うよ。」

「どうもすみません。」

というと、その女性は

「偉いね、君は。学生さんだろうけど、この女性の面倒見てやってね。じゃあ。」

彼女は急いで今まさに発車しようとしている電車にするりと飛び乗った。

 

女性を抱きかかえている姿は目立つだろうし、行きかう人の邪魔になるのか、駅員が何人か集まってきたようだ。これから何が始まるんだろうな、という不安に似た気分に襲われた。

ただ、どうも救護室か何処かに行くまで、悠介が抱きかかえていかなければいけないようだ。どうでもいいけど両腕が痺れてきて、おまけに頭はガンガン、身体はフラフラしてきたようだ。自分も倒れてしまわないよう、十分注意しながら駅員の後について行った。

 

-もうちょっと体を鍛えたほうがいいみたいだなぁ。

 

何日か前にも似たようなことを考えたような気がしたが、その時の悠介の頭の中は白い霞がかかったように、何も思い出すことができなかった。

 

《つづく》

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