恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

第12話 あなたはもう氷の女王ではない

宴は混沌としてきたようだ。

女性陣は全員未成年なので、我々4人も軽い飲み物を頼んでいたのだが、女性陣のひとりが我々のビールを、小鳥が水飲み場で水を飲むように上品に飲んだのだが、量はごくわずかでも飲みなれていないから、すぐに酔っぱらったような状態になってしまった。

それが引き金になったのか、この頃になると全員の仮面はとれてあちこち笑い声に包まれていた。

8人はほぼペア-毎に分かれ、悠介は知り合いだと勘違いされて例のミサトとかいう「婦人警官」と話すことが多くなった。他のペア-は話がはずんでいるように見える。

一方、悠介たち2人は話すことが多くなったとはいえ、けっして話が弾んでいるという訳では無かった。ただ、当初の険悪な雰囲気はどこかに飛んでいったのには、正直ほっとしたし助かった。

 

ヤレヤレ、お開きになるまでこんな状態が続くのかな…。

そう覚悟して、どうでもいい話題に話を振った時、何かが彼女の興味を引いたようだった。

それはダンスだった。

悠介は高3くらいからダンスが好きでYouTubeを見たりしていたのだが、大学に入ってから理工学部のダンスサークルに入って仲間とダンスの勉強やパフォ-マンスを楽しんでいた。

だが、考え方の違いからダンス自体にも夢中になれず、半年で退会した。今では気の置けない数人の仲間とYouTubeで見つけた動画を見て真似る程度のことしかしなくなったが。

悠介が話題にしたのは、一時期流行ったFlashMobのMarriageProposalの「あるダンス」だった。大阪のマリオン広場で撮られた、Chariceが歌うLouderの曲に乗って15人ほどのダンサ—が踊るあの有名な動画である。勿論、クライマックスは彼女にプロポ-ズする彼氏の言葉と彼女の返事であることは間違いない。

もちろんそれにも関心はあるが、悠介には彼らのダンスのパフォ-マンスが頭から離れなくなってしまった。

 

-僕もああいう風に踊りたいなぁ。

 

プロポ-ズする役も良いけど、それを引き立てるダンスの方により興味があったのだ。

それを何気なく彼女に話したら、彼女から初めて質問が飛んできたのだ!

 

-私もあの動画が大好きなの!!

-あなたはどのくらい踊れるの?

-私も高校ではダンスやっていたのよ。少しだけど…。

 

最後のフレ-ズは消え入りそうな声で、恥ずかしそうに言った。本当に笑顔が奇麗な女の子だな、と改めて思った。でもその笑顔がほとんど見られないのがなんとも残念だ。

悠介はちょっと悪戯心が湧いてきて言った。

「合気道か何かやっていたの? いつか僕の手首を捕まえた時の動きは凄かったから…。僕は全く動けなかったよ。」

「ああ、あれね。実は母から習ったのよ、ほんのちょっとだけど。」

「女性には必要だと僕は思うよ。自分の身を守れるからね。いっそ高校で習えるようにすればいいと思うけど。」

「母も、いざという時、例えば夜道で襲われそうになった時なんか、自分を守れるかもしれないからって。残念ながら、まだ役に立つ場面には出くわしてはいませんけどね。」

と皮肉交じりに言うと、うふふっと悪戯っぽく笑い出した。

       

悠介もつられて笑った。

そうだ、二人同時に笑ったのはこれが初めてだと気付いて、またおかしくなって笑ってしまった。僕らはもうお互いに目を逸らしたりはしなくなった。やっと何か共通の話題が見つかったからかもしれない。もしかすると、それは単に些細なキッカケに過ぎなかったのかもしれない。

その時、彼の直感がひらめいた。今やっと僕らはスタ-トラインに立ったのだ、という事を。

 

まだ100%氷解したとは言えないかもしれないが、確実にいい方向に向かっていることは間違いない。もう2度とあんな悪夢は見ることは無いだろう。むしろこれからは、笑顔が飛び切り魅力的なこの子の夢を見られるかもしれない。

これから彼女との仲はどのように進展していくのか、あるいはそりが合わなくて喧嘩別れするのか、正直今の彼には全く見当がつかなかった。

ただ、どのような結果になろうとも、それは彼ら自身で決めることなのだ。

2人の海図の無い航海が、もう始まっているのかもしれない。

 

《つづく》

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