恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

第13話 私には男の人を愛することが出来るのでしょうか?

合コン相手の男子学生4人と別れた後、美里は今晩泊まることになっている真理のマンションで話の続きをすることになった。本当は4人で今晩の「戦果」を確認し合いたかったのだが、一人がちょっと悪酔いした様だったので、実家が同じ沿線のもう一人が家へ送り届けることになったのだ。

まあ、来週にいくらでもこの話は出来るからいいや。

 

真理の賃貸マンションは、私鉄沿線にある女性専用のワンル-ムマンションだった。セキュリティはいいらしい。

でも室内は窮屈なんだろうなぁ、と想像していたのだが、いざ入ってみると奇麗に片付いているせいか思っていたほどでは無かった。ただ、そうは言っても最も大きい家具であるベッドの存在感は大きく、お世辞にも広いとは言えなかったが。

 

-この部屋で4人が寝るのはどう考えても無理だから、2人でちょうどよかったわ。

 

如何にも良家のお嬢さまという容姿に、おっとりと大人びた口調の長い黒髪をした真理。彼女の家は裕福らしいから、可愛い娘のためならこの程度の出費は大したことは無いだろう。

私たちの通っている大学は、付属の高校も含めてお嬢様学校と言われており、そういう裕福な家の学生が多いと聞いている。本来なら私が通うにはちょっと敷居が高くて、私は公立でいいよと言ったのだけど、母はお金のことは心配しなくていいよ、あんたの学費くらいはちゃんと当てがあるんだから、と取り合わなかった。

 

-あの人の世話にはなりたくないのに…。

 

美里は、自分と母を裏切り見捨てた父親を、どうしても許せなかった。いや、許したくはなかった。

思いだしたくもない父親の顔を思い出して、思わず顔をしかめてしまったようだ。

 

「どうしたの、そんなに難しい顔して? そんなにあの男が気にいらないの? それとも気になるのかな?」

うふふ、と真理は悪戯っぽく笑ってカプチ-ノの入ったカップを私に渡した。

ありがとう、と言ってその大好きな匂いを楽しみながら一口飲んだ。コーヒ-の香りと味が口の中に広がって、強張っていただろう顔と体から余計な力が抜けて、ほっとした気持ちになるのが分かった。

 

「正直言って、最初はどうなるかって皆心配してたのよ、美里は気付かなかったでしょうけど。あなたが得意の合気道の技を繰り出すんじゃないかとヒヤヒヤしたわよ。」

「まあ、色々あったのよ、彼とは。」

と言いながら、真理に出会った経緯を包み隠さず話した。今ではどう考えても、美里の早とちりでしかないと判っているからだ。あれだけ有った彼に対する嫌悪感はどこかに行ってしまったように清々しくもあった。

 

「そうよかったわ。私の感じだけれど、彼、エート悠介さんだったかしら、悪い人には見えなかったわよ。むしろ誠実な人の印象があったわ。まだ言うのは早いかもしれないけど、あなたとはお似合いかもしれないわよ。」

「私よりも、真理の方はどうなの? 滝本さんの純一さんだっけ、彼とはずいぶん話が弾んでいたんじゃないの?」

 

  

   

 

実際そうだった。初めのうちは彼の話に『微笑んでいた』だけだった彼女が、驚いたことにこのお淑やかな人がゲラゲラ笑いだしたのには、私たち4人全員があっけに取られてしまったほどだった。

「彼は高校の時になんと空手をやっていたんですって。それでね、当時のお話を聞いていたら面白くて面白くて、笑いをこらえるのが苦しかったわ。」

彼が話したというのは、高1の時の夏合宿初日の深夜に起こったという『血みどろのシゴキ事件』であった。

前日の稽古で爆睡していた1年生部員は、深夜2時頃にたたき起こされ、そこから深夜の恐怖稽古が始まったという、話だ。

結構面白そうな話だったので、その場の全員が純一の恐ろしくも抱腹絶倒のホラ話に聞き入っていた。彼の話しぶりからして本当に起こったことではないと判っていながら、彼の話し上手にのせられてしまっていたのだ。

 

この話を聞いた誰かが、この人たちと居るとなんか遊園地のお化け屋敷にいるような感じがする、と言いだして男性陣から、どういう意味だよ、と突っ込みが出るなど、実際に遊園地にいるような錯覚を覚えてしまった。本当に楽しい時間だった。こんな時間を過ごしたのはいつ以来だろうか、と考えて悠介のことを想いだした。

彼とは別れる時に連絡先を交換した。彼の方から言ってくれたのだ。断る理由などなかった。

これから彼とどのように付き合っていくか、正直全くわからない。期待と不安が半々だ。いや、不安が8割だろうか。

そう思ったら背筋に寒いものが走った。

 

-私には男の人を、心から愛せることが出来るのだろうか?

 

心の奥から《怖い》と言う声が聞こえてきたような気がした。

 

《つづく》

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