恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

その事件後 第31話 

「兄貴よう、何か話が全く違うじゃあないか? なん何だよ、あの女! あっという間にぶっ飛ばされちまいやがった! まるで柔道かなんかやってるみたいじゃないか!そんな話聞いてねえぞ!」

「ふ~ん、合気道か何かだろう。しかし小娘にしてやられるとはな、だらしのない話だが。」

「感心しててどうすんだよ! 小娘にやられたなんてみっともなくて、俺のプライドはズタズタだぜ。それによう、これじゃあ残りの金はもらえないじゃあないか!」

前金しかもらっていないのだ。残りは成功してから受け取ることになっている。

 

「あの子娘にはいずれお礼はしてやるとしてだ、この件をどう報告するかだな、厄介なのは。」

その兄貴と呼ばれている男は、依頼人の端正なマスクに隠された酷薄な裏の顔と、執着心が強く情け容赦のない性格を思い浮かべて、浮かない顔になった。

-言い方次第では、こちらの身が危ないかもしれんな。

 

 

悠介は予定通り美里を家の近くまで送り、いまメトロを降りて自宅に向かって帰るところだ。バスに乗っても遠回りなので、時間によっては歩いた方が早いことがある。

その夜は歩いて帰ることにした。先程メトロの中で考えていたことを、じっくり考えたかったからだ。

どう考えても今夜襲われたのは悠介を狙ったものに違いない。そうすると襲撃者は向井にやとわれた人間という事になるが。

-いったい何が目的なんだろう? 美波から身を引け、さもないと痛い目に会うぞ、という事なのだろうか。

これで2回目だ。

向井という男は相当美波にご執心のようだ。それにかなり執念深い男でもある。ならば、これでおしまいという事は無いだろうな。これからも襲われる危険はありそうだ。

それにしても解せないのは、何で美里と一緒にいる時に襲ったんだろう? 

そう考えてハッとした。

もしかしたら、彼らは悠介が美波というところを襲う積もりが、美里を美波と間違えて襲ってしまったということかも?

向井も彼らも、悠介がまさか2人の女と会っているなんて、想像できなかっただろうから。

今日は、悠介の苦手な力学のテストが終わった後の最初の週末だったので、美里と会うことにしたのだった。美波への未練はないといったらウソになるが、やはり美里との仲を犠牲にするなんて、どうしたって考えられなかった。

 

-やばいな。今の俺は完全に二股をかけているんじゃないか?

 

全くモテたことが無かった高校時代は、女子にもてたらどんなに幸せなんだろう、なんて思ったこともあったが、実際にその状態になってみると『現実と想像とは違う』というのがはっきりわかる。嬉しくも楽しくもありはしない。

今はとにかく襲われると思って自分を守ることを考えなきゃいけない。今夜は美里がいてくれて助かったよ。

そんなことを考えていたら、彼女に助けられた自分が惨めで情けない男に思えてきた。

 

-やっぱり護身術を習ったほうがいいかな。

 

でも今更習っても遅すぎるよな、そう思って大きなため息をついた後、気持ちをグッと引き締めて、夜道を用心深く歩いて行った。

 

 

美里はベッドの端に腰かけて、今日遭ったことを考えていた。

あのパンケ―キを食べた初デ-ト以来だから、2週間ぶりに会ったことになる。見たい映画も見たしイタリアンにも行ったしで、それ自体は凄く楽しかったのだけど、どうも悠介の様子は何となくぎこちない? いやよそよそしく見えた、と言った方がぴったりする。ハッキリ言えば、前回のデ-トの雰囲気の延長線上にある景色とは、違っているような気がする。

その意味するところは何なのか?

探偵もののミステリ小説にちょっと興味がある美里には、どうも気になることではある。

 

気になるといえば、今夜の襲撃事件だ。

何で悠介が狙われたのか。

彼は身に覚えがないといっていたが、本当にそうなのだろうか?

今日は私がいたから(⌒∇⌒)怪我せずにすんだけれど、彼がひとりの時はどうしたらいいんだろう?

そう思ったらいてもたってもいられず、悠介にメッセ-ジを送った。

『今日は有難う。もう着いた?帰りは大丈夫でしたか?返事待ってます💛』

-大丈夫とは思うけど、やっぱり気になるわ。

 

返事は直ぐに来た。

『今帰った。異常なし。今日は有難う。また会おうね♡』

だって! シンプル過ぎるわよ! 男ってなんで皆こんなに味気ないの?

急いでまた送った。

『よかった、安心したわ! おやすみなさい💗』

それに対する悠介から返事は、『おやすみ』だけだった。

 

-男ってこんなもんなんだろうな。つまんないわ。

 

早速、真理にメッセ-ジを書いておくった。今日のことを報告する約束になっていたからだ。

 

《つづく》

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襲撃者 第30話 

「兄貴よう、なんで俺たちはこんなくだらないことしなきゃなんないんだよ。たかがナヨナヨのへなちょこ男一人を痛めつけるのに、なんで兄貴と俺の2人でやんなきゃならないんだよ。」

「…… 」

「しかもよ、男には脅す程度でいい、痕が残らないようにしろ、女には手を出すな、ときたもんだ。まるで子供の喧嘩だな、くだらん。なあ兄貴ぃ?」

「…… 」

「こうなったらよ、男をのした後に、その女をちょっと抱かせてもらうってのはどうかな? やったってわかんねえだろ? その場で抱いてチュ-するだけさ。それによ、どう考えたってその男、大した面じゃあないのにそんな可愛い女と付き合ってるっての、どう考えたって世の中おかしいぜ。どうせ痛めつけるなら徹底的にやっちまおうぜ!」

「……サブ、良いかよく聞け。俺たちが命令されているのは、あの悠介っていう男だけをちょっと痛めつけて怖がらせてやればいいんだ。やり過ぎてサツが出てきたらヤバイ。こちらの足がつかないとも限らないからな。だから女にも手を出すな。とにかく言われたことだけをやればいいんだ。分かったか?」

「…分かったよ、兄貴。」

            



2人は今朝から悠介の家の近くで待ち伏せ、彼が外出した昼過ぎ以降尾行していた。午後3時頃に若い女と待ち合わせして、ショッピングしたり映画を観たりした後、今はイタリアンレストランだ食事中だ。

時刻はもう直ぐ9時になる。

  

「そら、店から出てきたぞ。」

兄貴と言われた男は、スマホの画像を見ながら、20メートルほど離れた所からこちらに向かってくる若いカップルの顔と比べている。店に入るところを見ているのだから間違えようがないのだが、念のためだ。

 

「いいか、やり過ごして後ろから襲う。その時に「お前は悠介か」と訊いて、振り向いたら一発お見舞いする。女にはかるく体当たりしてぶっ飛ばせばいい。こっちの顔を見られないようにするためだ。」

そのカップルは通りの向こう側を話しながら歩いている。

男2人が隠れている車の横を、今通り過ぎて行ったところだ。

暫く待ってから、

「よし行くぞ!」

2人はカップルの後を足音を消して追う。

2メ-トルほどの距離に近づいた時に、声を掛けた。

「悠介か?」

その男が驚いて後ろを振り返ろうとするその時に、一人の男が拳を振りかぶって悠介と呼ばれた男に殴りかかった……ように見えたのだが、何と殴り掛かった男は、どこをどうされたのかカップルの前方にひっくり返っているではないか⁉

するともう一人の襲撃者も悠介らしき男に躍りかかっていったが…またもやアスファルトの上にひっくり返ってしまった。

それは驚いただろう! ひっくり返った2人には、何が起きたのか全く訳が分からなかったのだから!

 

「やばい、逃げるぞ!」

兄貴と呼ばれた男がそう叫ぶと、残る男は兄貴とは逆方向に一目散に逃げて行った。

 

その男、悠介は逃げた男たち同様に、いったい何が起こったのか想像すらできずに、目をぱちくりさせてポケッとその場に突っ立っていた。横にいる女は、やれやれ、大したことないわね、と言いながらパンパンと両手を叩くと、

「悠介さん、って声かけていたみたいね。つまり初めから悠介さんか私たち2人を狙っていたってことになるわねェ。ふ~ん、何かあるわねェ。匂うわ。」

まるでミステリ小説の名探偵みたいな口をきいている。

 

「でも別に人に恨まれるようなことなんかやってないよ。」

そう言って、たった今気づいたというようにその女に声を掛けた。

「それにしても美里ちゃんの合気道はすさまじいね。本当に助かったよ。美里ちゃんがいなかったら、間違いなく殴られていたからね。」

「偽の痴漢じゃ無くて、今度は本当に役に立って良かったわ。」

にっこり恥ずかしそうに笑った美里だったが、何を思い立ったのか、にわかに悠介の目を覗き込むようにを見つめながら、

「本当に何も身に覚えがないの?」

「ある訳ないだろう、あんな奴らに。」

「いずれにしても注意しないといけないわね。」

そして今度は意味ありげな笑みを浮かべながら、

「この様子では、私が悠介さんを家まで送っていいかないといけないかしら?

そうして欲しい?」

それだけは勘弁してもらいたいな。そんなことがあの連中に知れたら大事だ。学部中の噂になって身の置き所が無くなってしまうよ。

どんな理由があるにせよ、男が女に身を守ってもらうなんて、絶対あってはならないことだ!

これは悠介の信念であった。たとえ相手に殴られようとも起き上がって、身を挺しても彼女を守るのが男の義務だ。

 

-まあ今回はそうはいかなかったけど…。

悠介にはまた悩みの種ができてしまったようで、渋い顔になった。

しかしよく考えてみると、悠介を狙ったものであるならば、これからも一人になった時に襲われる危険はあるだろう。悠介を痛めつけることが狙いならば。

 

-その時にどうやって防ぐか、だな。

 

こちらの方が悩みとしては断然大きいし、何しろ怖い。

 

-男としてだらしがないなぁ。みっともないよ。

 

弱い男は辛いのである。ヤワでもてる男は、もっと辛いし恥ずかしいのである。

 

 

《つづく》

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悠介の葛藤 第29話 

困ったなぁ。

口からこぼれる言葉は、先程から決まって同じだ。

見ているのはスマホの画面。そこには何も書いていない。これから書こうとしているのだけど、何を書いていいのか分からないのだ。

美里への返事を考えているのだが、どういう訳か頭に何も浮かんでこないのだ。昨日からずっとこんな調子だ。

 

-なんで返事が書けないんだろう。

 

正確に言えば、返事が書けない理由は分かっているのだが、何故だか自分でそれを認めたくない気持ちがあるのだろう。

正直に言えば、今の悠介の頭の中にある美里への思いは、あの初めてのデートの時の高揚とした天にも昇る気持ちはどこかに行ってしまったように、今は悠介の頭の中は、心の中は従妹の美波のことで一杯なのだ。

美波とはあれからも1回会った。その時は、

 

-どっちが誘ったんだっけな。    

 

思い返してみてもよく覚えていない。

覚えてはいないけど、どちらともなく会いたくなって会ったのだと思う。

 

彼女の学校の帰り道に、ほんのちょっとだっけ寄り道してもらって、小さなカフェで30分ちょっと話しただけの、プチデートであった。

何を話したのか記憶がぼんやりしていて覚えていないのだが、一つだけ覚えているのが彼女の唇であった。唇を見ていると、自然とあの時のキスを思い出してしまう。キスそのものよりも、あの柔らかく火照った唇を、と言った方がしっくりとするみたいだ。

           

突如、その唇が悠介の唇に接近してくるのではないか、という幻想というか期待を抱いていた悠介ではあったが、そんなことは起こるはずもなかった。

だって、彼女は高校の制服のままなのだから、例え人目が無くてもそんなことが出来る訳もなかったのだ。

 

彼女の家へ送る道すがら、悠介はそっと彼女の左手を彼の右手で軽く握ってみた。彼女は少し驚いたようだったが拒みはしなかった。拒みはしなかったがやはり制服姿では目立ってしまう。結局手を握ったのはほんの一瞬、10秒程度だろうか、だけだったのは残念だった。それでも彼女の体に触れられただけで満足だったと思う。

     

一度身体に触れてしまうと、次に会った時に一目見ただけであの感触が、唇に手に蘇ってきて、気持ちを抑えるのに苦労するという事があるなんて、ほんの少し前の悠介には信じられないことであったに違いない。

 

そう、今の悠介は恋する女子の身体に触れたというだけで、もう完全に美波のそれこそすべてに魅了されてしまっていたのだった。

 

そんな彼が、他の女性に愛の言葉なんか囁けるはずもなかった。

愛の言葉とまではいかなくても、相手に気を持たせるような甘い言葉を掛けられるほど、彼はもてた経験も無かったし、ましてやそんなことが自分に出来るとは思ってもいなかった。

そう、彼はそんなことが出来る器用な男ではないのだ。女性にしてみれば、高望みしなければ決して悪い選択肢ではないといえるかもしれない。

 

-何か書かなくては…。とにかく何か送らなきゃな。

 

今の自分は魔女に魔法をかけられた男なんだ。こんな魔法は直ぐに解けてしまうに決まっている。解けた時に自分は何と思うのだろうか?

自分が本当に好きなのは美里ではないのか? 

いま美里を、深く考えもせずに彼女を傷つけるようなことをすれば、もう二度と彼女と話すことも会うことも出来なくなるかもしれない。というより自分は口先だけの男だ、と誰からも軽蔑されるかもしれない。

 

-美波は、お前のただの従妹に過ぎないんじゃないのか! お前が本当に好きな人は美里じゃあないのか?

 

何とかその方向に気持ちを持っていこうとする悠介だったが、どうしても気持ちの切り替えができなかった。

 

-そうだよな、俺はそんなに世渡りが上手い男じゃないからなぁ。

 

と呟くと一気にメッセ-ジを書いて送信した。

「m(__)m。来週テストがあるから今週末はちょっと無理かも。それが終わってからゆっくり話そう。」

 

そんなたわいもないことを書いてしまったが、今はそれでしょうがない。

自分の気持ちに正直になることは大切だけど、心が揺れている時にそれをそのまま相手に伝えてしまうのは、恋愛経験に疎い自分でもよいこととは思えなかった。

 

-もしそれが正しいというならば、恋なんてしたいとは思わないだろうな。それって修羅場ってことじゃないの?

 

美里の顔を見れば美波のことはきっと忘れられるだろう。

 

-美波とは暫く合わないほうが良いかもしれないな。

 

会う事によって、また心が乱されるのが怖かったのだ。

 

 

 

その部屋の中は暗かった。

暗いが大きな机の上のライトに照らされて、男がデスクの上に何かを置いた。2枚の写真だ。男と女の写真。2人とも学生に見える。

デスクの前の男は、男の写真を自分の前に置き直して、にやりと笑った、ようだ。

しかし笑いは直ぐに消え、今は真剣な、いや怒気のこもった眼をその男の写真に向けていた。

ゆっくりとデスクの引き出しを開け、奥に隠してあったナイフを取り上げて、刃先を立てて写真の男の顔の上に静かに置いた。また笑ったようだ。

その刹那、刃先は写真の男の頭に食い込んでいた。男の頭は完全に割られていた。

 

《つづく》

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第28話 イケメンの客

その日、美里がフラワ-ショップの店番をしていたのには少々訳があった。

母が急用で外出しなければならず、しかもアルバイトの人の都合がつかなかったので、急遽美里が駆り出されたという訳だった。幸いにも今日の授業は午前中だけだったので、昼過ぎには店に出ることが出来た。

 

その男が店に入ってきたとき、美里は先客の相手をしていたのだが、その客が帰った後、その男を見てドキッと胸が締め付けられるほど、鼓動が高まるのを感じた。

黒のニットカーディガンを白のTシャツの上に着て、下はオリ―ブ色のチノパンツという、どこかのファッション雑誌から抜け出ていた様な、あるいはマネキン買いをしたような男の姿にちょっと圧倒されたのかもしれない。

その上、男は黒のサングラスをかけていた。年齢は25から30手前位?で中肉中背といったところかしら。口の周りにうっすらと髭を生やしている。それがまたセクシ—に見えた。

 

-ちょっとイケメンだし、何か男らしくてカッコいいわね。

 

悠介と比べては彼に気の毒ではあるけど、その違いは歴然?としているみたいだ。

その男は美里を見ると、ニコっと微笑んだ。その笑顔も魅力的だ💛。

        

「入院している人を見舞に行くんだけど、どのような花にしたらいいかわからないので…。」

-いい声しているわ、それも甘い…。

 

店の近くに大きな名の知れた大学病院があるので、そこに見舞いに行くのだろう。

「お見舞いなされる方は女性ですか、それとも男性でしょうか?」

それに年齢なども確かめておきたい。

相手の方の人となりを聞いて似合うだろうという花を見繕い、これで如何でしょうか、とその男に振り返って尋ねる。

この時、大方の人は「それで結構です。」と言ってくるのだけど、その人は、

「彼女は赤系の花が好みかと思うので、1,2本赤い花を加えてもらえますか?」

彼の声を聴きながら、おっとりとした物言いと男らしい雰囲気が、如何にも育ちのよい良家のお坊ちゃんを思わせた。

 

彼は美里を見つめながら、

「この花束だと、花瓶に入れてどのくらい持ちますか?」

「そうですねぇ、大体ですが1週間から10日程度でしょうか。」

「10日ですか。では、この次に見舞いに来るときにまた寄らせてもらうかもしれません。その時はまたよろしく。」

とにっこり笑って軽くお辞儀をすると、店先を右に曲がり病院のある方向にゆっくりと歩いて行った。

店先まで出て彼の遠ざかる後姿をうっとりと見つめながら、美里はやっとそのことに気がついた。

 

-そうだわ、あの人の声はあの俳優の声にそっくりなのよ。

 

それはひところ一世を風靡したある恋愛ドラマで、女の主人公の恋人役を演じた俳優の名前だった。

-スタイルといい声といい、文句のつけようのない人ね。育ちもよさそうだし、いいとこのお坊ちゃまかな。

 

         


 美里にはゆったりとした彼の所作から、やり手のビジネスマンというよりは、親の遺産かなんかで優雅に暮らしているセレブのような印象を受けた。

 

ふ-っと吐息をもらすと、

 

-でも、私には縁のない人だわ、きっと。私はお姫様じゃないから。

 

と思ったら、もうその人のことは頭から消え去っていた。もう次の客が私を必要としているようなのだ。

 

ただ、この一見何と言う事のない一人の男との出会いが、美里これからの恋の行方に大きな存在となって立ちはだかることになるとは、この時の美里には知る由もなかった。

 

《つづく》

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第27話 彼女は魔女?

【お知らせ】

このブログの小説は、これまでほぼ毎日1話ずつ投稿してきましたが、内容をより充実して継続していけるように、次回投稿を4日か5日後に、その後は投稿間隔を当初考えていた2,3日に1回程度とさせていただきたく考えています。(場合によっては短くなるかもしれませんが。)

このところ、スト-リ-に迷いが出てきて、中々話が進んでくれないことがままあるからです。もう少し先を見据えながら、目の前の1話1話を丁寧に紡いでいきたいと思います。

私自身としては、とにかく面白いものを書いていくことを第一に考えていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 

 

第27話 彼女は魔女?

 

悠介は自分が何を言われたのか、よく理解できていなかった。

好きよ、と言われたみたいだが、どのように好きという事なのか分からなかったのだ。

「あのさぁ、それって僕のことを美波が好きだってことで、いいんだよね?」

「そうよ。2回も同じこと言ったのだから、そうに決まっているでしょ。それとも他に別な意味があるのかしら?」

「それは、僕と付き合ってもいいってこと?」

「それが悠介くんの希望だったんでしょ? 違うの?」

「そうなんだけど…。」

「なによ、何か不満なんですか?」

そう言って彼女は両手を組んで頬をふくらませる素振りを見せた。

 

「いやあ、そうじゃないんだけど、余りにも急なことなんで、ちょっと…。」

 

実際、悠介は余りの急展開にびっくり仰天していたのだ。勿論それは見事なまでに顔の表情に表れていたようだ。

正直、悠介は何と言葉を返していいのか分からなくなっていたのだ。

 

何と言う事なのだろうか。

-美波のことを好きだと告白したのは、この僕なのに…。

なのにどうしたらいいか分からなくなったなんて、いったいどういう事だよ!

悠介は美波の目を見た。キラキラ輝いている。なんて綺麗な目をしてるんだろう。

 

-彼女は本気だな。

 

そう思った瞬間、悠介の唇は何か柔らかいもので塞がれてしまった。シュマロのようなもの、そう、熱く火照った美波の唇だと気づくのに、ほんの少し時間がかかったようだ。ぼんやり考え事をしていたのか、彼女の顔が間近に迫っていたのにも気づかなかったみたいだ。

     

 

彼女の両手は悠介の両頬を挟むように、軽く添えられていた。

 

-柔らかい、なんて柔らかい唇なんだ…。

 

思わず両手を彼女の頭を押さえるように抱きしめた。

そのまま歓喜の渦の中でうっとりしていた悠介であったが、その甘美な時はあっという間に過ぎ去ってしまった。目を開けると、彼女の唇が遠ざかっていくのが見える。

どうやら魔法の魔力が解けてしまったようだ。

彼女の頭を抱いていた両手を、未練がましくそのまま宙ぶらりんにさせていると、

「今日はここまでよ。ママが入ってきたら大変だから。」

と悪戯っぽく肩をすくめて微笑んでいる。

 

-可愛い、本当に可愛いなぁ…。

 

出来るものならこの場で、強く強く抱きしめたい衝動に駆られた。実際にそうしなかったのは、当然ながらここは美波の家だし、母親も近くに居るのでそんな事出来る訳が無かった。

しかし、この子はいつからこんなに愛らしくなったのだろう? 

いつからこんなに綺麗になったのか? 

いつからこんなに男を魅了する様になったのだろうか?

それに、いつからこんなに積極的になったんだろう? 

まるで自分がこの子に翻弄され弄ばれているように、悠介には感じられた。

彼女の服を押し上げている胸の盛り上がりは、悠介が告白したあの日と殆ど変わっていないのに、彼にはそう思えたのだが、何が彼女をこんなに変えてしまったんだろう?

 

-怖いな、女の子は。なんか追い越されちゃったみたいだな。

 

そして彼女の先程の言葉を思い出していた。

 

-きょうはここまで、か。

 

悠介は自分が、女王様に忠誠を誓わされ、神秘的で甘美なご褒美をお預けされた哀れな王子様のように思えて、こみ上げる笑いを抑えることが出来ずにいた。

目の前には笑っている悠介を、首を傾げながら見ている美波の顔があった。

 

《つづく》

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第26話 美波の告白

美波の風邪はなかなか治らなかった。

 

もう3日も寝たままだ。熱があるから起きるのも億劫だし、食欲もほとんどない。熱が39度を超えることも度々で、喉も痛い。きっとそのうち咳も出てくるに違いない。

ちょっと怖かったのだが、あれからあのような怖い夢は見ていない。

このような体が弱っている時にあんな怖い夢を見たら、本当に気絶してしまうわよ。うん、もしかして失神しちゃうのかな? まあどっちでもいいや、そんなこと。

 

そんなことを考えていたら、またとろとろと眠ってしまったようだ。

不意に目が覚めたら、なんとベッドの横に悠介が立膝を立てているのに気付いて卒倒しそうなくらいにびっくりした。

美波は何か言おうとしたのだけど、どういう訳か口が動かない。いや、唇がくっついて離れないのだ。これでは喋れるわけがない。

そう思っていたら、悠介の顔が自分のすぐ目の前にあるのに気付いた。美波は彼が何をしようとしているのか分かっていたので、そのまま彼がしたいように身を任せていた。

左手が美波の右頬に触れ、それが合図だったかのように彼の唇が美波のそれに押し当てられた。お互いに唇をむさぼり合いながら、二人は抱き合った。

 

悠介は不思議なことに一言も言葉を発していない。まるで何か口走れば、自分の姿が霧のように消えてしまうのを恐れているかのように。

その時、私は自分が服も下着も身に付けていないことに気がついた。

悠介は、美波が何も身に付けていないという事を、さも今気がついたといわんばかりに美波のそこに舌を這わせてきた……

ああっと、思わず声が漏れそうになる

その時、両肩を乱暴にゆすろうとするので、美波は「優しくしてね」と悠介にお願いした。したが……

 

「美波、美波、起きなさいよ! あなた大丈夫なの?」

また肩をゆすられてハッとして目が覚めると、目の前に母の顔が見えた。何だか心配そうな顔をしているようだ。

今度はハッキリ目が醒めた様だ。つばを飲み込んだらやはり喉が痛かった。風はまだ治っていないようだ。さっきはきっとうなされていたのかもしれない。

「美波、しっかりしてちょうだい。あなた先程うなされていたみたいよ。ママ、びっくりしちゃったわよ。」

「ああ、ママ。私うなされていたの?」

「そうよ。しきりに誰かの名前を読んでいたみたいだけど。」

ドキッとした。まさか…。

「さっき、悠介くんより電話あったわよ。メールかなんか送っても何の返事も返ってこないから、どうかしちゃったんですか、ってね。美波のこと凄く心配していたわよ。事情を話したら、かえって心配させちゃったみたいだけど。見舞いにきたいって言ってたけど、熱がまだあるから下がったら来てもいいわよ、って言っておいたけど。」

「うん、わかったわ。ありがとう。」出来たらもう5分遅く来てほしかったのに、と文句を言いたかったが。

 

その夢がまるで幕引きの合図だったかのように、熱はあっという間に下がり咳が出ることも無く、ほぼ治ったころに悠介が見舞いに来てくれた。

回復してからは悠介にメッセ-ジを送ったり電話で話したりしていたが、実際に悠介と向かい合って彼の顔を見ると、何とも言いようのない気持ちがこみ上げてくる。

 

悠介に何か言おうとしたら応接間のドアが開いて、母がトレイに飲み物とお菓子を持って入ってきた。

-もう、良いところだったのに…。

母は、悠介が見舞いに来てくれたことに対してしきりに礼を述べている。最後にはまた美波を何かに誘ってね、ですって!

母がドアを閉めて出ていくと、美波は悠介の顔をじっと見つめた。

悠介は静かに切り出す。

「美波ちゃんが元気になって良かったよ。一時は本気になって心配しちゃったよ。」

と笑った。その笑い顔もいいわ、と美波は思った。

美波は遠い昔を懐かしそうに思い出しながら、何かを企む悪戯っぽい目つきで彼に囁いた。

 

「私、好きになっちゃったかも。」

          

 

「…えっ」

その時の彼の顔と言ったら、美波が何を言ったのか理解できなかったのか、あるいは言った言葉は分かったものの、その意味を理解できなかったのか、とにかくポカンと口を半開きにしただらしない顔だったと思う。

だから、もう一度ダメを押してあげたの。

 

「私、悠介くんのこと、好きよ。」

 

これは告白なのだろうか。

美波には信じられなかった。だって「好きよ」なんて告白したのは初めてなのに、何の恥じらいも感じなかったし、胸がドキドキすることもなかったからだ。ただ嬉しいし幸せなだけだった。

 

-これって本当に恋なの?

 

美波にはまだ信じられない思いだった。

 

《つづく》

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第25話 美波の災難

その夜、美波の帰りが遅くなったのには特にこれと言った理由はなかったのだが、最寄りのメトロの駅を降りたのが9時半をとうに過ぎていた。

メトロの出口は大通りに面しているから車や人の往来は多いが、1本また1本と脇道に入るにつけ人通りがパタッと途絶えてしまい、街灯がポツンポツンと侘しく地面を照らしている坂の多い夜道を歩くのは、何とも言えない薄気味悪さがある。

 

-毎日通っている道なのに、何故か今夜は感じが違うみたい…。

 

それに加えて、家までの道のりで最も厄介なのは途中に小さい公園があることだった。昼間の明るい時間であれば、そこを抜けていけば近道なので通ることもあるが、夜しかも9時過ぎであればとてもではないけれど、鬱蒼と木々が茂っている薄暗いところなど通れはしない。第一怖い。

    

という事で、ちょっと回り道にはなるが公園の外周を廻って、家まであと数分のとこまで来た時だった。

突然、悲鳴のような声が聞こえたので、思わず足が止まってしまった。

……

女性の悲鳴が聞こえたような気がしたのだけど…。

耳を澄まして神経を研ぎ澄まして集中するが、今は何も聞こえない。

 

-気のせいだったのかしら?

 

怪訝には感じたが、美波はまた歩き始めた。こんなところで突っ立っていたってしょうがないし、とにかく怖い。

そのうち奇妙なことに気付いた。どういう訳か歩き方がぎこちない、ように感じる。

 

-どうしちゃったんだろう…。

 

歩いているのにどういう訳か前に進んでいない!

すると後ろから足音みたいな音が聞こえてきたので、飛び上がらんばかりにギクッとする。

コツ、コツ、コツ…。

足音は間違いなく後ろから自分に近づいてきている!

ここにきて美波は、自分がとんでもなく危険な状況に置かれているのではないか、という得も言われぬ恐怖に打ち震えた。

足音は美波のすぐ後ろまで近づいている…

すると足音は美波のすぐ後ろで止まり、何かが美波の肩に触れてきた…トントンと。

 

押し寄せる恐怖で胸が押しつぶされそうになった刹那、美波は夜空を凍らせるようなおどろおどろしい悲鳴を上げているではないか!

 

美波は既に分かっていたのだった! 誰が後ろにいるのかを!

覚悟を決めてゆっくりと後ろを振り向くと、そこにはあの向井が立っているではないか!それも白いTシャツを真っ赤に染めて、右手には血がべっとりついたナイフを握って…。

彼の顔はというと…何故かニヤニヤと笑っている。どうして笑っているのだろう、と思ったら、突然彼の口の両端が耳のところまで持ち上がる、いや耳まで裂けたように見えた!

そこで美波はまた悲鳴を上げていた。この世の終わりの瞬間とはそのようなものか、と想像させるには十分な凄まじい声音であった。

……

誰かの名前を叫んだような気もするが、そこ迄だった、美波が覚えていたのは…。

 

彼女は自身の叫び声で飛び起きてしまったようだ。間違いなく叫び声を上げたはずだが…暫く息をひそめていたが、家の中で誰かが動き出した気配はない。

 

-怖かった…

 

と思ったら体がガタガタと震えてきたようだ。そして心臓の鼓動が異常なほどに速く激しく耳の奥で響き渡っていた。

あの夢がもう少し長かったら、自分は気絶していたかもしれない。

そしてその時にやっと気付いたのだ、自分がいる場所を。

どう見てもここは自分の部屋のベッドの上だった。

 

-そうか、やっぱり転寝してしまったのね…。

 

美波はゆっくりと記憶の糸を手繰っていた。

彼に抱かれたような錯覚を覚えた後、気持ちを抑えられなくなって…

……

その後のことはよく覚えていない。覚えていないけど、感覚がまだ残っているのだ。

 

-随分リアルな夢だったわ。

 

その時突然、自分が容易ならない寒気に襲われているのに気がついた。頭もガンガンする。

美波はソファからゆっくりと起き上がって、薬箱を取りにリビングに降りて行った。薬を飲んだらすぐ寝るつもりでいた。

-明日は学校行けそうにないかも…。

 

それがベッドに横になった美波が、泥のような眠りに陥る直前に思ったことだった。

 

《つづく》

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