恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

襲撃者 第30話 

「兄貴よう、なんで俺たちはこんなくだらないことしなきゃなんないんだよ。たかがナヨナヨのへなちょこ男一人を痛めつけるのに、なんで兄貴と俺の2人でやんなきゃならないんだよ。」

「…… 」

「しかもよ、男には脅す程度でいい、痕が残らないようにしろ、女には手を出すな、ときたもんだ。まるで子供の喧嘩だな、くだらん。なあ兄貴ぃ?」

「…… 」

「こうなったらよ、男をのした後に、その女をちょっと抱かせてもらうってのはどうかな? やったってわかんねえだろ? その場で抱いてチュ-するだけさ。それによ、どう考えたってその男、大した面じゃあないのにそんな可愛い女と付き合ってるっての、どう考えたって世の中おかしいぜ。どうせ痛めつけるなら徹底的にやっちまおうぜ!」

「……サブ、良いかよく聞け。俺たちが命令されているのは、あの悠介っていう男だけをちょっと痛めつけて怖がらせてやればいいんだ。やり過ぎてサツが出てきたらヤバイ。こちらの足がつかないとも限らないからな。だから女にも手を出すな。とにかく言われたことだけをやればいいんだ。分かったか?」

「…分かったよ、兄貴。」

            



2人は今朝から悠介の家の近くで待ち伏せ、彼が外出した昼過ぎ以降尾行していた。午後3時頃に若い女と待ち合わせして、ショッピングしたり映画を観たりした後、今はイタリアンレストランだ食事中だ。

時刻はもう直ぐ9時になる。

  

「そら、店から出てきたぞ。」

兄貴と言われた男は、スマホの画像を見ながら、20メートルほど離れた所からこちらに向かってくる若いカップルの顔と比べている。店に入るところを見ているのだから間違えようがないのだが、念のためだ。

 

「いいか、やり過ごして後ろから襲う。その時に「お前は悠介か」と訊いて、振り向いたら一発お見舞いする。女にはかるく体当たりしてぶっ飛ばせばいい。こっちの顔を見られないようにするためだ。」

そのカップルは通りの向こう側を話しながら歩いている。

男2人が隠れている車の横を、今通り過ぎて行ったところだ。

暫く待ってから、

「よし行くぞ!」

2人はカップルの後を足音を消して追う。

2メ-トルほどの距離に近づいた時に、声を掛けた。

「悠介か?」

その男が驚いて後ろを振り返ろうとするその時に、一人の男が拳を振りかぶって悠介と呼ばれた男に殴りかかった……ように見えたのだが、何と殴り掛かった男は、どこをどうされたのかカップルの前方にひっくり返っているではないか⁉

するともう一人の襲撃者も悠介らしき男に躍りかかっていったが…またもやアスファルトの上にひっくり返ってしまった。

それは驚いただろう! ひっくり返った2人には、何が起きたのか全く訳が分からなかったのだから!

 

「やばい、逃げるぞ!」

兄貴と呼ばれた男がそう叫ぶと、残る男は兄貴とは逆方向に一目散に逃げて行った。

 

その男、悠介は逃げた男たち同様に、いったい何が起こったのか想像すらできずに、目をぱちくりさせてポケッとその場に突っ立っていた。横にいる女は、やれやれ、大したことないわね、と言いながらパンパンと両手を叩くと、

「悠介さん、って声かけていたみたいね。つまり初めから悠介さんか私たち2人を狙っていたってことになるわねェ。ふ~ん、何かあるわねェ。匂うわ。」

まるでミステリ小説の名探偵みたいな口をきいている。

 

「でも別に人に恨まれるようなことなんかやってないよ。」

そう言って、たった今気づいたというようにその女に声を掛けた。

「それにしても美里ちゃんの合気道はすさまじいね。本当に助かったよ。美里ちゃんがいなかったら、間違いなく殴られていたからね。」

「偽の痴漢じゃ無くて、今度は本当に役に立って良かったわ。」

にっこり恥ずかしそうに笑った美里だったが、何を思い立ったのか、にわかに悠介の目を覗き込むようにを見つめながら、

「本当に何も身に覚えがないの?」

「ある訳ないだろう、あんな奴らに。」

「いずれにしても注意しないといけないわね。」

そして今度は意味ありげな笑みを浮かべながら、

「この様子では、私が悠介さんを家まで送っていいかないといけないかしら?

そうして欲しい?」

それだけは勘弁してもらいたいな。そんなことがあの連中に知れたら大事だ。学部中の噂になって身の置き所が無くなってしまうよ。

どんな理由があるにせよ、男が女に身を守ってもらうなんて、絶対あってはならないことだ!

これは悠介の信念であった。たとえ相手に殴られようとも起き上がって、身を挺しても彼女を守るのが男の義務だ。

 

-まあ今回はそうはいかなかったけど…。

悠介にはまた悩みの種ができてしまったようで、渋い顔になった。

しかしよく考えてみると、悠介を狙ったものであるならば、これからも一人になった時に襲われる危険はあるだろう。悠介を痛めつけることが狙いならば。

 

-その時にどうやって防ぐか、だな。

 

こちらの方が悩みとしては断然大きいし、何しろ怖い。

 

-男としてだらしがないなぁ。みっともないよ。

 

弱い男は辛いのである。ヤワでもてる男は、もっと辛いし恥ずかしいのである。

 

 

《つづく》

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