恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

第28話 イケメンの客

その日、美里がフラワ-ショップの店番をしていたのには少々訳があった。

母が急用で外出しなければならず、しかもアルバイトの人の都合がつかなかったので、急遽美里が駆り出されたという訳だった。幸いにも今日の授業は午前中だけだったので、昼過ぎには店に出ることが出来た。

 

その男が店に入ってきたとき、美里は先客の相手をしていたのだが、その客が帰った後、その男を見てドキッと胸が締め付けられるほど、鼓動が高まるのを感じた。

黒のニットカーディガンを白のTシャツの上に着て、下はオリ―ブ色のチノパンツという、どこかのファッション雑誌から抜け出ていた様な、あるいはマネキン買いをしたような男の姿にちょっと圧倒されたのかもしれない。

その上、男は黒のサングラスをかけていた。年齢は25から30手前位?で中肉中背といったところかしら。口の周りにうっすらと髭を生やしている。それがまたセクシ—に見えた。

 

-ちょっとイケメンだし、何か男らしくてカッコいいわね。

 

悠介と比べては彼に気の毒ではあるけど、その違いは歴然?としているみたいだ。

その男は美里を見ると、ニコっと微笑んだ。その笑顔も魅力的だ💛。

        

「入院している人を見舞に行くんだけど、どのような花にしたらいいかわからないので…。」

-いい声しているわ、それも甘い…。

 

店の近くに大きな名の知れた大学病院があるので、そこに見舞いに行くのだろう。

「お見舞いなされる方は女性ですか、それとも男性でしょうか?」

それに年齢なども確かめておきたい。

相手の方の人となりを聞いて似合うだろうという花を見繕い、これで如何でしょうか、とその男に振り返って尋ねる。

この時、大方の人は「それで結構です。」と言ってくるのだけど、その人は、

「彼女は赤系の花が好みかと思うので、1,2本赤い花を加えてもらえますか?」

彼の声を聴きながら、おっとりとした物言いと男らしい雰囲気が、如何にも育ちのよい良家のお坊ちゃんを思わせた。

 

彼は美里を見つめながら、

「この花束だと、花瓶に入れてどのくらい持ちますか?」

「そうですねぇ、大体ですが1週間から10日程度でしょうか。」

「10日ですか。では、この次に見舞いに来るときにまた寄らせてもらうかもしれません。その時はまたよろしく。」

とにっこり笑って軽くお辞儀をすると、店先を右に曲がり病院のある方向にゆっくりと歩いて行った。

店先まで出て彼の遠ざかる後姿をうっとりと見つめながら、美里はやっとそのことに気がついた。

 

-そうだわ、あの人の声はあの俳優の声にそっくりなのよ。

 

それはひところ一世を風靡したある恋愛ドラマで、女の主人公の恋人役を演じた俳優の名前だった。

-スタイルといい声といい、文句のつけようのない人ね。育ちもよさそうだし、いいとこのお坊ちゃまかな。

 

         


 美里にはゆったりとした彼の所作から、やり手のビジネスマンというよりは、親の遺産かなんかで優雅に暮らしているセレブのような印象を受けた。

 

ふ-っと吐息をもらすと、

 

-でも、私には縁のない人だわ、きっと。私はお姫様じゃないから。

 

と思ったら、もうその人のことは頭から消え去っていた。もう次の客が私を必要としているようなのだ。

 

ただ、この一見何と言う事のない一人の男との出会いが、美里これからの恋の行方に大きな存在となって立ちはだかることになるとは、この時の美里には知る由もなかった。

 

《つづく》

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