恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

悠介の葛藤 第29話 

困ったなぁ。

口からこぼれる言葉は、先程から決まって同じだ。

見ているのはスマホの画面。そこには何も書いていない。これから書こうとしているのだけど、何を書いていいのか分からないのだ。

美里への返事を考えているのだが、どういう訳か頭に何も浮かんでこないのだ。昨日からずっとこんな調子だ。

 

-なんで返事が書けないんだろう。

 

正確に言えば、返事が書けない理由は分かっているのだが、何故だか自分でそれを認めたくない気持ちがあるのだろう。

正直に言えば、今の悠介の頭の中にある美里への思いは、あの初めてのデートの時の高揚とした天にも昇る気持ちはどこかに行ってしまったように、今は悠介の頭の中は、心の中は従妹の美波のことで一杯なのだ。

美波とはあれからも1回会った。その時は、

 

-どっちが誘ったんだっけな。    

 

思い返してみてもよく覚えていない。

覚えてはいないけど、どちらともなく会いたくなって会ったのだと思う。

 

彼女の学校の帰り道に、ほんのちょっとだっけ寄り道してもらって、小さなカフェで30分ちょっと話しただけの、プチデートであった。

何を話したのか記憶がぼんやりしていて覚えていないのだが、一つだけ覚えているのが彼女の唇であった。唇を見ていると、自然とあの時のキスを思い出してしまう。キスそのものよりも、あの柔らかく火照った唇を、と言った方がしっくりとするみたいだ。

           

突如、その唇が悠介の唇に接近してくるのではないか、という幻想というか期待を抱いていた悠介ではあったが、そんなことは起こるはずもなかった。

だって、彼女は高校の制服のままなのだから、例え人目が無くてもそんなことが出来る訳もなかったのだ。

 

彼女の家へ送る道すがら、悠介はそっと彼女の左手を彼の右手で軽く握ってみた。彼女は少し驚いたようだったが拒みはしなかった。拒みはしなかったがやはり制服姿では目立ってしまう。結局手を握ったのはほんの一瞬、10秒程度だろうか、だけだったのは残念だった。それでも彼女の体に触れられただけで満足だったと思う。

     

一度身体に触れてしまうと、次に会った時に一目見ただけであの感触が、唇に手に蘇ってきて、気持ちを抑えるのに苦労するという事があるなんて、ほんの少し前の悠介には信じられないことであったに違いない。

 

そう、今の悠介は恋する女子の身体に触れたというだけで、もう完全に美波のそれこそすべてに魅了されてしまっていたのだった。

 

そんな彼が、他の女性に愛の言葉なんか囁けるはずもなかった。

愛の言葉とまではいかなくても、相手に気を持たせるような甘い言葉を掛けられるほど、彼はもてた経験も無かったし、ましてやそんなことが自分に出来るとは思ってもいなかった。

そう、彼はそんなことが出来る器用な男ではないのだ。女性にしてみれば、高望みしなければ決して悪い選択肢ではないといえるかもしれない。

 

-何か書かなくては…。とにかく何か送らなきゃな。

 

今の自分は魔女に魔法をかけられた男なんだ。こんな魔法は直ぐに解けてしまうに決まっている。解けた時に自分は何と思うのだろうか?

自分が本当に好きなのは美里ではないのか? 

いま美里を、深く考えもせずに彼女を傷つけるようなことをすれば、もう二度と彼女と話すことも会うことも出来なくなるかもしれない。というより自分は口先だけの男だ、と誰からも軽蔑されるかもしれない。

 

-美波は、お前のただの従妹に過ぎないんじゃないのか! お前が本当に好きな人は美里じゃあないのか?

 

何とかその方向に気持ちを持っていこうとする悠介だったが、どうしても気持ちの切り替えができなかった。

 

-そうだよな、俺はそんなに世渡りが上手い男じゃないからなぁ。

 

と呟くと一気にメッセ-ジを書いて送信した。

「m(__)m。来週テストがあるから今週末はちょっと無理かも。それが終わってからゆっくり話そう。」

 

そんなたわいもないことを書いてしまったが、今はそれでしょうがない。

自分の気持ちに正直になることは大切だけど、心が揺れている時にそれをそのまま相手に伝えてしまうのは、恋愛経験に疎い自分でもよいこととは思えなかった。

 

-もしそれが正しいというならば、恋なんてしたいとは思わないだろうな。それって修羅場ってことじゃないの?

 

美里の顔を見れば美波のことはきっと忘れられるだろう。

 

-美波とは暫く合わないほうが良いかもしれないな。

 

会う事によって、また心が乱されるのが怖かったのだ。

 

 

 

その部屋の中は暗かった。

暗いが大きな机の上のライトに照らされて、男がデスクの上に何かを置いた。2枚の写真だ。男と女の写真。2人とも学生に見える。

デスクの前の男は、男の写真を自分の前に置き直して、にやりと笑った、ようだ。

しかし笑いは直ぐに消え、今は真剣な、いや怒気のこもった眼をその男の写真に向けていた。

ゆっくりとデスクの引き出しを開け、奥に隠してあったナイフを取り上げて、刃先を立てて写真の男の顔の上に静かに置いた。また笑ったようだ。

その刹那、刃先は写真の男の頭に食い込んでいた。男の頭は完全に割られていた。

 

《つづく》

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