美里は胸の中でうずうずしている気持ちを持て余して、ついに真理に電話するのを抑えきれなかった。文字では書ききれない程の長さになりそうに思えたから。
「うん、彼のこと色々分かったし私のこともまあ一応話せたし、うまくいったのかな?」
「そう、じゃあ美里の人生初デ-トは大成功という訳ね。良かったじゃない。おめでとう!」
でも結局は電話で話した翌日に会うことになった。
こういう話の大事なところは会って話さないとダメなのよ、と真理が駄々をこねたからだが、美里にしても会って話すことは、むしろ願ってもない嬉しいことなのだ。直接会って《成果》を話し、真理の反応を確かめながら喜びを共有する、こんな素敵なことがあるだろうか!
昨日の今日で、余り人込みにはいきたくないなぁ、と真理に言ったら、それならうちに来たら、と言ってくれたので遠慮なくお邪魔している訳だ。
「では、何から訊いて欲しい?」
「何でもいいわよ。何でも訊いてちょうだい。」
「じゃあパンケ―キからにしようかな?」
「え-、聞きたいのはそっちなの⁉」
「冗談よ。じゃあ悠介さんについての質問です。彼の専攻は機械工学だったわよね。純一さんと同じ学部なんでしょ?」
「そう。なんか講義の内容が難しいだけでなく、殆ど必修科目ばかりで空き時間が少ないってこぼしてたわ。」
「まあ理系学部というのはどこもそうらしいわね。そうしたらあまり会う機会が無いんじゃないの? 会いたい会いたい、なんて泣きついて来ても私は知りませんよ。フフ」
「真理だって、純一さんとあまり会えないかもしれないんじゃないの?」
「そうね。でも会えなくても声が聞ければいいわ。だってホラ話を聞かせてもらうのに、会わなくてはならないことはないでしょう?」
声を聞くだけならそれで良いかもしれないけれど…。
「そうだ、悠介さんが今度大学のキャンパスを案内してくれるみたいなの。真理も一緒にどうかしら?」
「私は遠慮しておくわ。お二人で楽しんでいらっしゃいよ。私は純一さんに案内して頂くから。」
それからも美里は悠介から聞いたこと、話したことを思い出せる限り話していた。
ただ、悠介の前で泣いてしまったことは黙っていようと決めた。何となく高校生みたいに泣き出してしまったなんて、恥ずかしくて言える訳がないじゃないの。
美里の『報告』が一段落したところで、そういえば、と声を潜めるように美里に顔を近づけながら言った。
「私たちの大学の理事長である西園寺家のことなんだけど、2年間ほどアメリカの大学で勉強していたご子息が、最近日本に帰国したっていう噂を聞いたわ。留学というよりはかなり遊んでいたらしいから遊学ね。言ってみれば典型的なお金持ちのボンボンね。結構イケメンの男らしいけど、ちょっと要注意人物なんですって噂よ。」
お淑やかな真理が世間の噂に詳しいなんて、ちょっと意外な気がする。
「どういうこと?」
「要は女たらしという事みたいよ。見かけが良いし女の人ならだれにでも親切にするから、女は直ぐに夢中になってしまうんですって。でも彼は一人の女と付き合う事では満足できなくて、他の女にも平気で声を掛けたりするんですって。声を掛けるって、つまりは付き合うってことなんだけど、二股や三股は当たり前だとか。そうすると夢中になった女は大変みたいよ。怖いわよねぇ。」
どう大変なんだろう、何が怖いんだろう、と訊き返してみたかったが、やめておいた。どうせ美里には関係のない人なんだから。
どんなに外見は良くてやさしそうに振舞っても、私は絶対に引っかかりませんからね、と美里は鼻息荒く呟いていた。
《つづく》
ブログランキングに参加しています。ポチっとクリックして頂けると嬉しいです。