恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

第24話 愛のさざ波

悠介の従妹である美波はどうしているであろうか?

 

今日はゴ-ルデンウィーク明けの月曜で通常通りの授業があったから、美波が帰宅したのは4時過ぎだった。朝からどんよりとした曇り空で、日中でも5月にしては肌寒いと感じるくらいの陰鬱な一日だったこともあり、美里はリビングのソファ―に腰掛けたら、どっと疲れが出たような気分だった。何となく体が怠く感じる。

 

-連休中に遊び癖がついちゃったからかな? あ-あ、連休が過ぎちゃうとつまんないなぁ。

 

連休前半は例の向井のことで頭が一杯だったし、昨日までの4連休も夕方からは気を抜けなかったから体より神経が参っているのかもしれない。

 

一体いつまでこんな生活を続けなければならないんだろう。

 

終わりが見えない不安に押しつぶされてしまいそうな自分が哀れに思えてきた。

そんな落ち込んでいた時、メッセ-ジの着信音がした。悠介からだった。

今日は講義がある日なのに、こんな時間に送ってくるとはどうしたんだろう?

そう思いながらメッセ-ジを開くと、簡単なメッセ-ジと共に動画が貼り付けてあった。メッセ-ジは

『元気にしてるか? これ聴いてもっと元気になれ!』

ふッと微笑んで動画を開くと、椅子に腰かけギタ-を弾いている悠介の姿があった。

懐かしいイントロが聞こえてきたと思ったら、悠介の聞き慣れた甘い声が耳に心地よく響いてきた。その曲はほんの半年前まで放映されていたテレビドラマの主題歌であった。

-これは、愛を告白する歌じゃないの…。

 

君が好きだ、とかいう直接的な言葉はないけど、君に会いたい、君を笑顔にしたい、君に届けたい、などという胸をときめかせるフレ-ズが並んでいる、まさに愛を語る歌なのだ。

エンディングの後に、『美波ちゃんのこと、忘れてないからね。』という言葉が飛び込んできた。

美波は心臓が飛び出るかと思うほどびっくりしてしまった。

 

この『忘れていないからね』というのは、向井の件のことを忘れてはいないよ、いう事に違いない。違いないのだけれど、それを聞いた時に真っ先に頭に浮かんだのは、違う意味だったのだ。

『君のことを忘れてはいないよ』

つまり文字通りの愛の言葉に聞こえたのだ。

それは美波にとって全く予想外の思いといっていい。

 

-悠介くんの言葉から、私が『愛』を感じたなんて…。

 

そうなのだ、連休前の美波には考えられないことだった。悠介のことが好きだとは思っていたが、恋人とか彼氏という意味でないことは美波自身ハッキリしていたと思う。

とても付き合いたい、という気持ちではなかったと思う。

それがどうしたことだろう、あれから1週間しか経っていないのに、悠介の自分を元気づける言葉から、愛という《特別な》言葉を真っ先に思い浮かべるなんて…。

 

-私は悠介くんを《本当に》好きになってしまったのかしら? つまりは、私は彼を愛しているってことなの?

 

このことは、ある意味悠介の告白を聞いた時以上に、美波には衝撃的な出来事に思えてきた。

今自分は、今まで経験したことのない未知の世界に足を踏み入れてしまったのかもしれない。そこからは今までの世界に後戻りができない、細い細い一本道を。

 

-悠介くんが恋人になるってこと?

 

恋人ということは、いつかは彼に抱かれることもあるのだろう。いつかはキスをするようになるかもしれない。

そして、いつかは…。

そう考えただけで、顔が、体中がまるで瞬間湯沸かし器のように瞬く間に熱く火照ってきたと思ったら、身体の奥底からじんじんと何か熱いものが湧き出てくるような感覚に襲われた。それはまるで誰かに身体を触られているような、それでいて痺れるような、下半身から力が抜けていく感覚だった。もちろん、今までに体験したことのない、ある種甘美な感覚でもあった。

 

-私はいま、悠介くんに抱かれているのかも…。

そう考えたら、美波はもう気持ちを抑えることが出来なくなってしまっていた。

 

-つよく抱いて、お願い!

 

もう間違いなく、もう引き返せない道を、自分は歩いているのだ、と感じた。

 

《つづく》

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第23話 女たらしの噂

美里は胸の中でうずうずしている気持ちを持て余して、ついに真理に電話するのを抑えきれなかった。文字では書ききれない程の長さになりそうに思えたから。

 

「うん、彼のこと色々分かったし私のこともまあ一応話せたし、うまくいったのかな?」

「そう、じゃあ美里の人生初デ-トは大成功という訳ね。良かったじゃない。おめでとう!」

 

でも結局は電話で話した翌日に会うことになった。

こういう話の大事なところは会って話さないとダメなのよ、と真理が駄々をこねたからだが、美里にしても会って話すことは、むしろ願ってもない嬉しいことなのだ。直接会って《成果》を話し、真理の反応を確かめながら喜びを共有する、こんな素敵なことがあるだろうか!

 

昨日の今日で、余り人込みにはいきたくないなぁ、と真理に言ったら、それならうちに来たら、と言ってくれたので遠慮なくお邪魔している訳だ。

 

「では、何から訊いて欲しい?」

「何でもいいわよ。何でも訊いてちょうだい。」

「じゃあパンケ―キからにしようかな?」

「え-、聞きたいのはそっちなの⁉」

「冗談よ。じゃあ悠介さんについての質問です。彼の専攻は機械工学だったわよね。純一さんと同じ学部なんでしょ?」

「そう。なんか講義の内容が難しいだけでなく、殆ど必修科目ばかりで空き時間が少ないってこぼしてたわ。」

「まあ理系学部というのはどこもそうらしいわね。そうしたらあまり会う機会が無いんじゃないの? 会いたい会いたい、なんて泣きついて来ても私は知りませんよ。フフ」

「真理だって、純一さんとあまり会えないかもしれないんじゃないの?」

「そうね。でも会えなくても声が聞ければいいわ。だってホラ話を聞かせてもらうのに、会わなくてはならないことはないでしょう?」

声を聞くだけならそれで良いかもしれないけれど…。

「そうだ、悠介さんが今度大学のキャンパスを案内してくれるみたいなの。真理も一緒にどうかしら?」

「私は遠慮しておくわ。お二人で楽しんでいらっしゃいよ。私は純一さんに案内して頂くから。」

       

それからも美里は悠介から聞いたこと、話したことを思い出せる限り話していた。

ただ、悠介の前で泣いてしまったことは黙っていようと決めた。何となく高校生みたいに泣き出してしまったなんて、恥ずかしくて言える訳がないじゃないの。

 

美里の『報告』が一段落したところで、そういえば、と声を潜めるように美里に顔を近づけながら言った。

「私たちの大学の理事長である西園寺家のことなんだけど、2年間ほどアメリカの大学で勉強していたご子息が、最近日本に帰国したっていう噂を聞いたわ。留学というよりはかなり遊んでいたらしいから遊学ね。言ってみれば典型的なお金持ちのボンボンね。結構イケメンの男らしいけど、ちょっと要注意人物なんですって噂よ。」

お淑やかな真理が世間の噂に詳しいなんて、ちょっと意外な気がする。

「どういうこと?」

「要は女たらしという事みたいよ。見かけが良いし女の人ならだれにでも親切にするから、女は直ぐに夢中になってしまうんですって。でも彼は一人の女と付き合う事では満足できなくて、他の女にも平気で声を掛けたりするんですって。声を掛けるって、つまりは付き合うってことなんだけど、二股や三股は当たり前だとか。そうすると夢中になった女は大変みたいよ。怖いわよねぇ。」

 

どう大変なんだろう、何が怖いんだろう、と訊き返してみたかったが、やめておいた。どうせ美里には関係のない人なんだから。

どんなに外見は良くてやさしそうに振舞っても、私は絶対に引っかかりませんからね、と美里は鼻息荒く呟いていた。

 

《つづく》

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第22話 初デ-ト(2)

どうしていいか途方に暮れていた彼であったが、目の前の惨劇にやっと名案を思い付いたかのように「アッ、そうだ」と呟くと、パンツの後ろポケットに入れていたハンカチを取り出して、女性に渡していい程度の綺麗さであることを確かめてから、美里に両手で差し出してきた。

 

-パンツの後ろポケットからって、何よ。

 

と何となく突っ込みを入れたかったけれど、美里は無言でそれを受け取り涙を拭きとった。もう泣き虫の私はどこかに行ってしまったようなので、美里はホッとした。

 

「ありがとう。」

「それ、良かったら持っていていいよ。僕はもう一つ持ってきたから。」

もう一つ……その言葉を聞いたらまた目が潤みそうになってきた…。

 

-今日の私は感傷的すぎるわ。どうしちゃったんだろう、本当に。

 

美里たちは自然と並んで歩きだしていた。二人とも無言だ。美里は何か言ったらまた涙ぐんでしまいそうで、何も話せなかったのだ。

駅前で自分たちを見ていた人たちは、ああ、あの二人は喧嘩したか、あるいは別れ話をしていたんだろう、と思ったかもしれない。そう思ったら笑い出したくなる程愉快なことのように思えてきた。

 

そんなことを考えていたら、目指すカフェのすぐ前まで来ていた。蔦の絡まった緑の外観が、周りから浮き出たように錯覚するほど目立つたたずまいだ。

何人か待っている人はいるけれど、そんなに待ち時間は長くはないかもしれない。

美里は今言わなければならないことを、やっと言う勇気が湧いてくるのを感じた。

「ごめんなさいね。急に泣き出したりしたから驚いたでしょう?」

「いやぁ、うん、ちょっと驚いたかな。でも大丈夫?どう考えても僕に責任がありそうだから、もう一度謝るよ。ごめんなさい。もう君を傷つけるようなことは決して言わないと誓います。」

そこまで言うか、というくらいに勘違いして謝っている彼を見て、美里は自分の中に長いこと潜んでいた、男の人の心を猜疑する気持ちが薄れてきているのを感じ取っていた。

 

-彼にたいしては大丈夫かも…。

 

そう思ったら、急にお腹が空いてきてしまった。空腹といってもいいくらいだ。今日の私は壊れたロボットみたいね、と思いながら彼に話しかけた。

「ここのパンケ―キは凄く美味しいんだけど、もの凄いボリュ‐ムがあることでも有名らしいの。試してみない? もしかしたら悠介さんでも食べきれないかも。」

「僕はね、痩せの大食いだからどんな量のものが出てきてもへっちゃらだよ。君がもし食べきれなかったら、僕が食べてあげるからね。」

「お気の毒さま。私も食べることについては自信があるのよ。勿論、男の人の様には食べられないかもしれないけど、真理とはどっこいどっこいよ。知ってるでしょ、真理が良く食べること?」

 

悠介が食べたいと言ったのは、パンケ―キの上にイチゴやらアイスやらいろんなものがトッピングしてある巨大なパンケ―キだった。

      

 

一方美里はというと、焼きマシュマロのパンケ―キにした。

      

 

メニュ-の写真を見ると、パンケ―キの上に四角い《座布団》のような巨大(!)な焼いたマシュマロが乗っており、そこにバニラとシロップの甘さが絡まった極上の一品らしい。

 

注文してからくるまでに20-30分かかったようだけど、今の二人にはあっという間の時間に思えた。

注文したパンケ―キが運ばれてきたときは、思わず生唾を飲んでしまったほどだ。

 

-恥ずかしい…。でも美味しそうだわ。

 

美里は、フォークとナイフを器用に使って最初の一口を口に運んだ。

しっとりとしたパンケ―キの生地に、バニラとシロップの甘さが程よく浸み込んで絶妙な味わいを醸し出している。

思わずウ~ンと呟いて悠介を見たら、彼も両眼を大きく見開いて、ウンウンと頷いている。

-良かった。やっぱり彼とここに来てよかったわ。

 

《つづく》

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第21話 初デ-ト(1)

第21話を始める前に、「主な登場人物」と「あらすじ」からどうぞ。

書いている私自身でも、時々名前を間違えそうになるので…。

 

主な登場人物 

城ケ崎悠介 私立W大学理工学部2年生

一見優男で優柔不断なところもあるが、反面いったん決めたらとことんやる一途な一面もある。曲がったことが嫌いで、家族(特に女性陣)から不器用な性格と言われる。小さい頃から失恋ばかりで、恋愛に関しては成功体験ゼロ。2歳上の姉と両親との4人家族。この物語の主人公。

松崎美波  悠介の従妹 K大女子高3年生

悠介が小さい頃から密かに思いを寄せている、スレンダ—で可憐な女子。性格は大人しい。過去のある事から、悠介とは必要以上に意識し合うようになった。

吉岡美里 F女学院大学1年生 フラワ-ショップの娘

悠介との衝撃的な出会いもあり、お互いに反発しながらも魅かれていく。母親譲りの気の強い性格の半面、優しい男らしい男性との出会いを夢見る女子でもある

滝本純一 私立W大学理工学部2年生

悠介の付属高校以来の親友のひとり。とにかく人を引き込む話術は一品でやんちゃな性格な一方で、高校では空手部の主将を務めた硬派でもある。とにかく要領のいい、悠介とはある意味真逆の性格。

吉福正樹  同経済学部2年生

悠介の付属高校以来の親友のひとり。185センチの長身だが、腰は軽く素早い身のこなしで交際範囲が広く、いろいろなところにコネを持つ役に立つ男。

黒川尚大  同商学部2年生

悠介の付属高校以来の仲間のひとり。実家が裕福で仲間内では、庭に『金のなる木』があると噂される気前のいい男。

佐々木里穂 同教育学部2年生 悠介の中学時代の片思いの人

芦田祐子  K大女子高3年生 美波の同級生で親友

小柄のぽっちゃり系で、美波とは対照的に活発でしっかり者の女子。美波の良き相談相手でもある。

石川真理 F女学院大学1年生で美波の親友

如何にも良家のお嬢さまという容姿に、おっとりと大人びた口調の長い黒髪をした女子。率直で飾らない性格を美里が気に入っており、大の親友。

 

第1話から20話までのあらすじ

悠介は子供の頃から思いを寄せていた従妹の美波に告白するが、ハッキリとした返事をもらえない。そんな状況である日、美里と衝撃的な出会いをする。その出会い故にお互いに反発していたが、合コンで再会したことから打ち解け始める。一方、従妹の美波は、大学の上級生向井から一方的な交際を迫られたことから、悠介に相談して恋人役になってもらい向井に断りの返事を送った。そのことから、悠介は美波を送った帰りに車で襲われることになった。美波と美里は、悠介とどう「付き合って」いくべきか苦悩する。特に美里は、自分たちを見捨てた父親への憎悪から、悠介が「どちら側の男」なのか判断に苦しんでいる。

 

第21話 初デ-ト(1)

 

美里と悠介の記念すべき初デ-トは、ゴ-ルデンウィークのど真ん中の昼前に、恵比寿駅前で落ち合う事になった。

相談した結果、あまりお金のかからないカフェで、2人の大好きなスイ-ツを食べながら過ごすことになったのだ。行く店は美里が決めた。その界隈では名の知れたパンケ―キが名物のカフェなのだ。

駅前から徒歩4,5分のその店は、女性に人気のあるお店なので前々から入ってみたいと思っていたが、高校生同士では何となく入りづらかったのだ。

-悠介さんとなら堂々と入れるかも。

 

そんなことを考えていたら、無性に会うのが楽しみになってきた。人気の店だから、入るまでに結構待つことになるかもしれないが、待つのも楽しみではあるかもしれない。

合コンの時に聞いた話では、男の人なのに甘いものが好きなんですって。そういう人もいるんだって、正直驚いてしまった美里だった。

 

駅前についた時は、約束の時間の10分前だった。遅れるのは嫌だったので予定通りといっていい。悠介はまだ来てないだろうと思って周りを見渡そうとしたとき、不意に美里さん、と声を掛けられた。驚いて振り向くとそこに悠介が立っていた。

 

-私の方が早く来たと思っていたのに…。

 

悠介の顔は、何とも複雑な顔をしている!

緊張しているのだろうか、笑おうとしているのに顔の筋肉は強張っている、なんかアンバランスな顔を見ていたら、何故か笑いが込み上げてくるのはどうしてだろう?

自分を見て美里が笑っているのを、悠介は不思議そうに見ていたが何も言ってこなかった。事態が良く呑み込めない状況にどう対処していいか分からないからだろうか。

-それは当然のことなのよ。だって私にもよく分からないことだから。

「ごめんなさい。お待たせしちゃったかしら?」

「いいや全然。僕も今来たばかりだから。それに待ち合わせの時間前だからね。」

突然、悪戯心が湧いてきた。

「一つ訊いてもいいかしら?」

「もちろん。」

「もしも私が遅れてきたら悠介さんはどう思う?」

ちょっと訊いてみたいこと、そして聴いてみたい返事だった。だらしない女と思うだろうか?

《僕は時間に遅れる人は嫌いなんだよ。だから君が遅れなくて本当によかったよ。》

という男の人は結構いると、雑誌なんかにデートの際の注意事項として必ず書いてあることだ。もちろん遅れる方が悪いのだが、美里が知りたいのはその理由であり言い方だった。

 

「君が遅れてきたら、か。待つのは辛いかもね。」

やはりそうか。やっぱりイライラするのは当たり前よね。そうだろう、と思っていたら

「いやあ、もしかしたら約束の時間を間違えたかもしれないとか、約束をすっぽかされたかもしれないなんて考えたら、どうしていいか分からないだろう?このまま待つべきか、それともすべてを諦めてとぼとぼ帰るか、そんなこと考えたら辛くてたまらないよ。」

そうか、美里の目の前にいる人はそう考えるのか。

彼の言ったことは、美里が予想していたこととは正反対の返答だった。

この人はそう言う人なのだ、と美里は思った。その途端に嬉しくて涙がでそうになるのを必死で堪えた。でも、あっと思った時には不覚にも涙が一滴頬を伝ってしまった。

 

美里のその顔が彼を驚かせて不安にもさせたのだろうか。

「え-と、何か変なこと言ったかな。そーか、君が約束をスッポカスなんて言ったからだよね。勿論そんなことは絶対に無いんだけど、ただ待たされる側としてはそう思ってしまうもんなのかな。いや、一人で待っていると何故か不安になるんだ。振られちゃったなんて最悪のことも考えちゃうし…。」

その時の私は、もう完全にコントロ-ル不能の状態だった。涙が止めどもなく流れて唇がワナワナ震えてしまっている…。声を出さなかったのはせめてもの幸いだったと言える。

こんな些細なことで人は泣いたり感激したりするもんだ、というのを美里は初めて実感した。こういう事で涙するのは大歓迎かもしれないが。

でも、今はもうだめ、やめて欲しい…。お願い…。

 

男の人が女の涙に弱い、という話は親友の真理から聞いてはいたが、その時の悠介は正にその姿だった。

 

《つづく》

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第20話 我が良き友よ

-この件は美波には言わないでおこう。言ったって怖がらせるだけだから。

 

夜道を急ぎながら悠介は先程のことを考えていた。

あの車は間違いなく悠介を狙ったものだろう。いや、狙ったというよりも「脅しをかけた」と言った方が当たっているかもしれない。脅して怖気させようとしたのかな、それとも単なる嫌がらせだろうか。

 

-知りたいのだったら、本人に聞くしかないか。

 

まあ、それができれば苦労はしないのだが。

悠介は夜道を歩きながら細心の注意を払っていた。もしも家の住所を知られたら、この先非常に厄介なことになるかもしれなかった。端的に言えば危害を加えられることもあるかもしれない。

何も知らない家族を危ない目には会わせられない。

 

家に帰って遅い夕食を食べていたら、美波より着信があった。いつものお礼だったので、簡単な返信をしておいた。

部屋に入ってすぐにまた着信があった。

美波からかな、と思ったら予想外の人からだったのでびっくり仰天してしまった。

もう、永久に来ないのではないかと諦めかけていた美里からのものだった。

『メッセ-ジ有難う。でも返信が遅くなってごめんなさいね。このところちょっとゴタゴタしていたもので。でももう大丈夫です。悠介さんは如何でした?』

急いで返信した。

『返信ありがとう。返事もらえなかったので、ちょっと凹んでました。近いうちに会えたら嬉しいんだけど、どう?』

 

送信してからよく考えてみると、合コンの日からまだ3日しか経っていないことに気がついた。いろいろなことがあったせいか、1週間くらいは経っていた感じがしていた。

-ヤレヤレ、君の方だけじゃなくて、こっちも《いろいろ》あったからねぇ。

 

さて、そうなると向井の件をなんとか早くかたずけないと。

こういう時は、やはりあいつしかいないだろうな、と困った時の頼れる友に電話を掛けることにした。今日のうちに話しておいたほうが良いと思ったからだ。

 

翌日。

「昨日話した後に考えてみたんだが、ハッキリ言ってこれだ、というものは浮かばなかったな。」

ゴ-ルデンウィ—クの谷間の1日目は、まさに絵にかいたような五月晴れの快晴だった。おまけに心地良いそよ風が吹いていて、暑すぎない快適な陽気だ。

キャンパスの小さな中庭の噴水のわきに腰かけて、悠介は滝本と例の向井の件について話していた。いくら要領のいい滝本でも、そう簡単にグッド・アイディアは浮かびはしないという事のようだ。

 

「ただ、俺の勘では奴の行為は単なる嫌がらせだろう。美波ちゃんの彼氏がどんな奴か見たくなり待ち伏せた。2人が歩いているところを見付けて、思わず悪戯心が芽生えて『ちょっと脅かしてやるか』、とまあこういう訳じゃあないのかな?」

「悪戯心と言ったって、下手すれば撥ねられていたかもしれないんだぞ。悪戯にしては悪質だ。」

「確かにな。その男も一応目的を達した、と満足して暫くは自重してくれるといいんだが。ところでその車だけど、どんな車だったのか覚えているか?」

「ヘッドライトが眩しくてよく分からなかったけど、小型のスポ―ツタイプの車の様だった。」

「日本車か外車のどちらだ?」

「うーん、はっきりとはわからないけど、外車だと思う。」

悠介は有名な欧州車のいくつかのブランドを挙げた。

「やっぱり裕福なお坊ちゃまが乗り廻す車は違いますなぁ。」

本当だ。学生の身分で親の脛でやりたい放題のことをしている向井に腹が立ってきた。まあ、悠介だって親の脛でこうやって生活している訳なので、偉そうなことは言えないが…。

 

「ところで、純一はコンパで真理さんと言う人と結構盛り上がっていたけど、あれからどうしてるの? もう付き合ってるとか?」

「まあ、メールの交換くらいはしてるけど、まだそこ迄だ。ただ、あの時話していて面白いことが分かった。何だかわかるか?」

「いや。」

「俺はすましたお嬢様タイプの女子は苦手なんだが、彼女は一見してお淑やかな感じだろ? だから俺の向かいに座った時に、思わずしまった、と思ったんだ。今回はついていないなって。ところがだ、話しているうちに面白いことが分かってきたんだ。」

彼はにやりと笑い、話をつづけた。

「お淑やかではあるが、根は活発で媚びるようなところが無い。でもなあ、一つ一番気に入ったことがある。何だかわかるか?」

「そんなの分かる訳ないだろ。早く話せよ。」

「ハハハ、彼女は何と痩せの大食いなんだとさ! でも人前では恥ずかしいから猫被ってお嬢様で通しているらしい。だから俺は言ってやったんだ。俺の前では大食いで良いぞってな。」

成る程と、悠介は唸った。こいつが大食いの女子が嫌いではない、と言っていたことを思い出したのだ。あるミステリーテレビドラマの女弁護士が、アシスタントの男が作るボリュ‐ムたっぷりの料理を見事なまでに平らげるシーンがあったが、俺はこういう女子が好きなんだ、と。

悠介は、何ともほほえましい話を聞いて心が和んでいくようで、それに身を任せていた。

純一と真理さんはきっとうまく行くだろう。

悠介の頼れる親友は、と彼の顔を見ながら、ぴったしカンカンの彼女を見つけた様だな、そう思ったら自分まで嬉しくなってきた。

まるで今日の心地良いそよ風のように清々しい気分だ。

 

今の2人はこういう初々しい関係なのかな? 

                     

 

《つづく》

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第19話 教えてください。あなたはどっちの側にいる人なの?

-アーア、困ったわ。

 

また美里はため息をついてスマホの画面を見つめた。

ここ数日、美波は同じことを繰り返していた。

 

もし悠介さんと付き合うようになったら、いつかあの父親に対する憎しみを悠介に対しても抱くようになってしまうのではないか?

美里は父親が家を出ていった日のことを思い出していた。中学2年になったばかりの春の夜だった。桜は咲いていたが、花冷えのする一日で、出ていく彼は美里に声を掛けることも無く黙って出て行った。もう相手の女のことしか頭になかったのだろう。

 

美里が高校に入学してから、母はぽつりぽつりと独り言のように美里に話すようになった。お父さんに女ができたのはいつからだとか、帰宅が遅くなることが頻繁にあったとか、外泊もよくあったという。美里には単なる出張だといって隠していたらしい。

 

父は家を出て暫くすると離婚の書類を送ってきたという。でも母は承諾しなかった。しびれを切らした父は、娘の養育費の支払いとある程度の慰謝料を払うから離婚してくれ、と泣きついてきたらしい。破廉恥で浅ましく醜い話だと思った。この日から父を憎んだと思う。そして他の男に対しても、一層警戒心が強くなった。

 

男と言うのは、結婚して子供ができて中年になり地位を得ると、不倫をして妻子を捨てる、そういう生き物だというように思い始めたのはいつからだろうか? 勿論、全ての男がそうだというのではないだろうが、だったらどうやって見分けたらいいのだろうか? 

 

-そんなの私にわかる訳がないじゃないの!

 

馬鹿らしいことだが、もし悠介に事情を話すことが出来たなら、彼に問いただしてみたい。あなたはどっちの側にいる男なの、と。

でも、そんな事出来る訳ないじゃないの、と自分で自分をたしなめるしか美里には思いつかなかった。こんな面倒な女の子と付き合おうなんて、誰も思わないに違いない。悠介もきっとそう思うに決まっている。

 

-本当にそうだろうか。

 

悠介の人のよさそうな、でもちょっと気の弱そうな顔を思い出しながら、男の人は誠実で優しい人が一番だよ、と母が口癖のように言っていたのを思い出し、自分を励ました。

ふ―、と大きく息を吐いてから、スマホに書いたメッセ-ジを確かめて送信ボタンを押した。

 

-私はもう迷わないわ。ううん、迷うこともあるかもしれないけれど、絶対後戻りだけはしないわ。

 

 

《つづく》

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第18話 美波さん、あなたは彼のことが好きなんですか?

夕食を終えて部屋に戻って来た美波は、ため息をつきながらベッドに寝転がった。

食事中に母が何度となく聞いてくるのが鬱陶しかった。このところあまり元気が無かったから心配してくれているのは分かるけど、ちょっとウンザリする。明日の学校の準備があるから、と言って早めに席を立った。

まあいいや、と呟いて、気持ちを今別れてきた悠介に切り替えた。

 

-やっぱり彼に話してよかったわ。

 

向井の件はまだ解決はしていないけれど、悠介に相談してからは今のところ何も起きていない。

 

-このまま何もなければいいのだけど…。

 

いつまでも悠介に頼っている訳にもいかない事はわかっている。大学の授業に出なければいけないだろうし、勉強もしなければいけないだろう。理系の学部の授業が厳しく拘束時間が長いから大変だ、と悠介が言っていたから尚更だ。

かといって、もう大丈夫よ、とは言えそうもない。

 

気になることはそれだけでは無かった。

 

-この件が終わったら、もしこのまま何も起こらずに終わったら、私たちはどうなるのだろう? いや、私はどうしたらいいのだろうか?

 

正直に言えば、美波は今、悠介に頼り切っている。彼がいないことなど考えられない。彼と居れば安心するし、一人でくよくよ考えることも無くなった。不思議なことに、彼ならばどんなことでも話せるような気がする。男の人にこんな気持ちになったことなんて、今までになかったことだ。

 

-悠介くんのことが好きなんだろうか?

 

美波は今までに恋をしたことはなかった。中学までは「カッコいい」とか「いいな」と思うような男子はいたが、恋と呼べるようなドキドキと胸をときめかしたことはなかったと思う。

うちの高校は女子だけだから、それに結構お堅い学校なので、交際なんて思いもよらないことだ。

だから今回悠介に告白されたことは美波の人生で初めてのことだったのだ。

   

そこまで考えて、美波はあることに気付いた。

美波は悠介と既に付き合っていることになるのではないのか? 例え「護衛」と言う名目であっても、美波と悠介は肩を並べて話をしながら夜道を歩き、それが楽しいと思う。彼ならば何でも相談できると思うし、頼りになる男の人だと思う。そして、それこそが恋と言うものなのではないのか?

 

美波は何度も首を振ってため息をついた。何度考えても同じところに戻ってきてしまう。まるで迷路に迷い込んでしまったようだ。

こういう時は直接自分に訊いてみるのがいいかもしれない。

 

-美波さんに質問です。あなたは悠介くんのことが好きですか?

 

うふふ、こんなバカなことでもしないと、頭がおかしくなっちゃうわ、と独り芝居に笑ってしまった。

そうだ、と呟いてスマホを手に取った。悠介に今日のお礼のメッセ-ジを送らないと。

もう家でゆっくりとしている頃だろうから。

 

 

《つづく》

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