恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

第20話 我が良き友よ

-この件は美波には言わないでおこう。言ったって怖がらせるだけだから。

 

夜道を急ぎながら悠介は先程のことを考えていた。

あの車は間違いなく悠介を狙ったものだろう。いや、狙ったというよりも「脅しをかけた」と言った方が当たっているかもしれない。脅して怖気させようとしたのかな、それとも単なる嫌がらせだろうか。

 

-知りたいのだったら、本人に聞くしかないか。

 

まあ、それができれば苦労はしないのだが。

悠介は夜道を歩きながら細心の注意を払っていた。もしも家の住所を知られたら、この先非常に厄介なことになるかもしれなかった。端的に言えば危害を加えられることもあるかもしれない。

何も知らない家族を危ない目には会わせられない。

 

家に帰って遅い夕食を食べていたら、美波より着信があった。いつものお礼だったので、簡単な返信をしておいた。

部屋に入ってすぐにまた着信があった。

美波からかな、と思ったら予想外の人からだったのでびっくり仰天してしまった。

もう、永久に来ないのではないかと諦めかけていた美里からのものだった。

『メッセ-ジ有難う。でも返信が遅くなってごめんなさいね。このところちょっとゴタゴタしていたもので。でももう大丈夫です。悠介さんは如何でした?』

急いで返信した。

『返信ありがとう。返事もらえなかったので、ちょっと凹んでました。近いうちに会えたら嬉しいんだけど、どう?』

 

送信してからよく考えてみると、合コンの日からまだ3日しか経っていないことに気がついた。いろいろなことがあったせいか、1週間くらいは経っていた感じがしていた。

-ヤレヤレ、君の方だけじゃなくて、こっちも《いろいろ》あったからねぇ。

 

さて、そうなると向井の件をなんとか早くかたずけないと。

こういう時は、やはりあいつしかいないだろうな、と困った時の頼れる友に電話を掛けることにした。今日のうちに話しておいたほうが良いと思ったからだ。

 

翌日。

「昨日話した後に考えてみたんだが、ハッキリ言ってこれだ、というものは浮かばなかったな。」

ゴ-ルデンウィ—クの谷間の1日目は、まさに絵にかいたような五月晴れの快晴だった。おまけに心地良いそよ風が吹いていて、暑すぎない快適な陽気だ。

キャンパスの小さな中庭の噴水のわきに腰かけて、悠介は滝本と例の向井の件について話していた。いくら要領のいい滝本でも、そう簡単にグッド・アイディアは浮かびはしないという事のようだ。

 

「ただ、俺の勘では奴の行為は単なる嫌がらせだろう。美波ちゃんの彼氏がどんな奴か見たくなり待ち伏せた。2人が歩いているところを見付けて、思わず悪戯心が芽生えて『ちょっと脅かしてやるか』、とまあこういう訳じゃあないのかな?」

「悪戯心と言ったって、下手すれば撥ねられていたかもしれないんだぞ。悪戯にしては悪質だ。」

「確かにな。その男も一応目的を達した、と満足して暫くは自重してくれるといいんだが。ところでその車だけど、どんな車だったのか覚えているか?」

「ヘッドライトが眩しくてよく分からなかったけど、小型のスポ―ツタイプの車の様だった。」

「日本車か外車のどちらだ?」

「うーん、はっきりとはわからないけど、外車だと思う。」

悠介は有名な欧州車のいくつかのブランドを挙げた。

「やっぱり裕福なお坊ちゃまが乗り廻す車は違いますなぁ。」

本当だ。学生の身分で親の脛でやりたい放題のことをしている向井に腹が立ってきた。まあ、悠介だって親の脛でこうやって生活している訳なので、偉そうなことは言えないが…。

 

「ところで、純一はコンパで真理さんと言う人と結構盛り上がっていたけど、あれからどうしてるの? もう付き合ってるとか?」

「まあ、メールの交換くらいはしてるけど、まだそこ迄だ。ただ、あの時話していて面白いことが分かった。何だかわかるか?」

「いや。」

「俺はすましたお嬢様タイプの女子は苦手なんだが、彼女は一見してお淑やかな感じだろ? だから俺の向かいに座った時に、思わずしまった、と思ったんだ。今回はついていないなって。ところがだ、話しているうちに面白いことが分かってきたんだ。」

彼はにやりと笑い、話をつづけた。

「お淑やかではあるが、根は活発で媚びるようなところが無い。でもなあ、一つ一番気に入ったことがある。何だかわかるか?」

「そんなの分かる訳ないだろ。早く話せよ。」

「ハハハ、彼女は何と痩せの大食いなんだとさ! でも人前では恥ずかしいから猫被ってお嬢様で通しているらしい。だから俺は言ってやったんだ。俺の前では大食いで良いぞってな。」

成る程と、悠介は唸った。こいつが大食いの女子が嫌いではない、と言っていたことを思い出したのだ。あるミステリーテレビドラマの女弁護士が、アシスタントの男が作るボリュ‐ムたっぷりの料理を見事なまでに平らげるシーンがあったが、俺はこういう女子が好きなんだ、と。

悠介は、何ともほほえましい話を聞いて心が和んでいくようで、それに身を任せていた。

純一と真理さんはきっとうまく行くだろう。

悠介の頼れる親友は、と彼の顔を見ながら、ぴったしカンカンの彼女を見つけた様だな、そう思ったら自分まで嬉しくなってきた。

まるで今日の心地良いそよ風のように清々しい気分だ。

 

今の2人はこういう初々しい関係なのかな? 

                     

 

《つづく》

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