夕食を終えて部屋に戻って来た美波は、ため息をつきながらベッドに寝転がった。
食事中に母が何度となく聞いてくるのが鬱陶しかった。このところあまり元気が無かったから心配してくれているのは分かるけど、ちょっとウンザリする。明日の学校の準備があるから、と言って早めに席を立った。
まあいいや、と呟いて、気持ちを今別れてきた悠介に切り替えた。
-やっぱり彼に話してよかったわ。
向井の件はまだ解決はしていないけれど、悠介に相談してからは今のところ何も起きていない。
-このまま何もなければいいのだけど…。
いつまでも悠介に頼っている訳にもいかない事はわかっている。大学の授業に出なければいけないだろうし、勉強もしなければいけないだろう。理系の学部の授業が厳しく拘束時間が長いから大変だ、と悠介が言っていたから尚更だ。
かといって、もう大丈夫よ、とは言えそうもない。
気になることはそれだけでは無かった。
-この件が終わったら、もしこのまま何も起こらずに終わったら、私たちはどうなるのだろう? いや、私はどうしたらいいのだろうか?
正直に言えば、美波は今、悠介に頼り切っている。彼がいないことなど考えられない。彼と居れば安心するし、一人でくよくよ考えることも無くなった。不思議なことに、彼ならばどんなことでも話せるような気がする。男の人にこんな気持ちになったことなんて、今までになかったことだ。
-悠介くんのことが好きなんだろうか?
美波は今までに恋をしたことはなかった。中学までは「カッコいい」とか「いいな」と思うような男子はいたが、恋と呼べるようなドキドキと胸をときめかしたことはなかったと思う。
うちの高校は女子だけだから、それに結構お堅い学校なので、交際なんて思いもよらないことだ。
だから今回悠介に告白されたことは美波の人生で初めてのことだったのだ。
そこまで考えて、美波はあることに気付いた。
美波は悠介と既に付き合っていることになるのではないのか? 例え「護衛」と言う名目であっても、美波と悠介は肩を並べて話をしながら夜道を歩き、それが楽しいと思う。彼ならば何でも相談できると思うし、頼りになる男の人だと思う。そして、それこそが恋と言うものなのではないのか?
美波は何度も首を振ってため息をついた。何度考えても同じところに戻ってきてしまう。まるで迷路に迷い込んでしまったようだ。
こういう時は直接自分に訊いてみるのがいいかもしれない。
-美波さんに質問です。あなたは悠介くんのことが好きですか?
うふふ、こんなバカなことでもしないと、頭がおかしくなっちゃうわ、と独り芝居に笑ってしまった。
そうだ、と呟いてスマホを手に取った。悠介に今日のお礼のメッセ-ジを送らないと。
もう家でゆっくりとしている頃だろうから。
《つづく》
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