「エ-っ、彼に告白して、すぐにキスまでしちゃったの? ちょっと待ってよ、なんか展開が早すぎない? やだぁ、そんな感じだったらあっという間に最後までいっちゃうんじゃないの?」
「う~ん、それはないとおもうけど…。これ以上はダメって言うから」
「甘いなぁ、美波は。男って、そういう時は我慢できなくなるって言うじゃない?」
「彼は大丈夫よ。彼はそう言う人じゃないから」
ヤレヤレ、と言いながら、周りに注意しながら顔を近づけて小声で訊いて来る。
「それでどうだった? 好きな人との初キスの味は?」
祐子は興味津々に聞いてくる。楽しそうだ。
美波はウフフっと含み笑いをしながら、
「どうだったといわれても、どうだったのかな? 咄嗟にキスしたんで、ゆっくり味わっている暇がなかったんだけど(笑)、何か凄く熱かったわ。彼の唇も私のも。」
「熱かったなんて、いやだわ。こっちまで熱くなってきちゃうじゃない!」
と言って、右手で団扇を扇ぐようにパタパタと振って見せた。
「でもさあ、もしも美波のお母さんがいなかったら、もっと先までいっちゃったんじゃないの? 彼が優しいからって言っても、男は男よ、我慢できないらしいからね」
それもあるかもしれない。しかし美波には自信があった。
「さっきも言ったじゃない。悠介くんは大丈夫なのよ。彼は私のことを大切にしてくれるから。信じているの」
「まあ、凄い惚れようね? 暑い暑いわよ! でもいいなあ。私にも美波のような彼氏が欲しいな。飢えたオオカミみたいな男じゃなくて、優しい男が。誰かいないかなぁ」
美波と親友の祐子は、学校帰りにミスタ-ドーナッツで、ドーナッツを食べながらカフェオ-レを飲んでいるところだ。
まだ6月にはなっていないのに、まるで梅雨のような空模様が続いている、陰鬱でちょっと肌寒い午後だったが、2人にはそんな天気なんかお構いなしに熱い話題で沸騰していた。
「そうすると美波と悠介さんは両想いという事になる訳でしょ? そうしたら、これからは手を繋いだり、肩を組んだり、背中や腰に手をまわしたりってこともするんだ。凄いね!」
「そんなの人前ではしないわよ。恥ずかしいし…」
「でもさぁ、まだ先のことかもしれないけど、将来一緒になろうとかも考えている訳?」
「う~ん、どうなんだろう。私にもよく分からないなぁ。そういうのはまだ早すぎるんじゃあないかしら。それにね、悠介くんは少し優柔不断のところがあるから、私の方が積極的にならないと、前に進まないんじゃないかなぁ」
「あのさぁ、一緒になったら、悠介さんは絶対に美波の尻に敷かれるね(^_^)。面白そう!」
「やだ、やめてよ! 私たちまだ一緒になるって決まったわけじゃあないし…」
「でもさあ、美波たちは従妹同士でしょ? 今はお母さんは知らないかもしれないけど、悠介さんとのことが判ったら、どうなっちゃうのかな? なんかすごく恥ずかしくない、違う?」
美波もそこはちょっと気になっているところなのだが…。
-お母さんに知られたら恥ずかしいなぁ…。
ただ、美波には母は絶対に反対はしないという確信に近いものがあった。むしろ良かったねェ、と歓迎されるような気がする。根拠はないけれど美波の勘だった。
そこで祐子はちょっと真剣な顔になって、例のことを聞いてきた。
「向井の件はどうしちゃったの?」
美波も少し緊張が走る。
「今のところは別に変ったことは起きてないみたいよ。悠介くんからも何も言ってこないし」
「良かったじゃない! 向うもきっと諦めたのかもね」
「そうだといいんだけどねぇ」
何も起きていないのだからそれはそれでいいことなのだが、どうも美波には何も起こっていないことが薄気味悪く感じられた。
-もう何も起こりませんように…。
その噂の男は、スマホに文字を打ち込み1枚の写真と共に誰かにメッセ-ジを送った。
どうやら新たな刺客が放たれたようだ。
しかし、どういう訳かこの男がやること、そしてそのやり方には緻密さや知性が感じられないのだ。一流私立大学に通いながら、あまり熱心に学業に精を出しているとも思えない。しかしだからと言ってこの男を見くびるのは危険かもしれない。
執念深さと酷薄さにおいては、他の追随を許さないほどの男と言われている。親の資金援助と警察への口利きや世間への口封じが無ければ、通っている大学はもとより世間からも全く見放されていたに違いない。そういう危ない男なのである。
今度の刺客はどのような奴なのだろうか? 悠介と美波に新たな危険が迫っているようだ。
《つづく》
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