恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

第17話 危機一髪

芦田祐子という美波の親友は、ぽっちゃりとした愛嬌のある顔立ちの少女であった。

美波が言っていたように、しっかり者で好奇心が強いというのは、上目遣いで探るように悠介を見る仕草で何とはなしに分るような気がする。年上の悠介に緊張していたり遠慮するような素振りはないようだ。

 

昨日美波との別れ際に、悠介は2つのことを美波に頼んでおいたのだ。

まず、彼女が最も信頼出来て、向井健のことを少しでも知っている人物に合わせてもらうこと、そしてその人に全てを話し我々に協力してもらうよう頼むことだった。悠介が恋人役をやる限りは、最小限でも口裏を合わせておく必要があるからだ。

 

「今日は来てくれてありがとう。大体の話は美波ちゃんから聞いているかとは思うけど、君は向井と言う人からメッセ-ジを受け取ったことがあるかな?」

「いえ、有りません。」

「じゃあ、君から見て向井と言う人はどういう人だと思う? 人から聞いたことでも構わないから。」

「エート、私たちと3学年違うし大学生なので、秋の学園祭で会ったのが最初で最後です。だからその時の印象で言えば、うーん、ちょっと馴れ馴れしいし、自分勝手な我儘なところがあるかもしれないです。」

「ところで君は向井さんの写真を持っているんだって? 見せてもらっていいかな?」

「いいですよ。」

と言って、スマホから向井の写っている画像を取り出した。

それは彼女が内緒で写したもので、向井が美波に話しかけているものだった。

身長は悠介と同じか少し低いくらいの中肉中背と言ったところか。容貌はのっぺりした顔で心なしか小ずるそうな顔つきに見えるのは、先入観があるせいかもしれない。

特に何か武術のようなものをやっているようには見えない。ちょっとホッとする。

 

「昨日、僕らは向井さんにあるメッセ-ジを送ったことは知っているよね?」

「はい、美波から聞きました。」

「その中で、私、つまり美波のことだけど、には付き合っている人がいるので、会うことも出来ないし、メッセ-ジを送ることもやめていただきたい。と言うようなことを書いて送ったんだ。昨日は僕が家まで送り届けたけど、怪しい人物には出会わなかったようだ。どこかから様子を見ていた、ということもあるかもしれないが。」

そこで話を一旦切って、2人を交互に見ながら続けた。

「今日も帰りは送っていくつもりだ。だから君たちの用が済んだら僕に連絡して欲しいんだよ。」

「分かりました。でも大変ですねぇ。」

何となく思わせぶりな言い方なので、ちょっと訝っていると

「だって、それってまるで本当の恋人同士みたいですよ。誰が見ても怪しまないと思うな。」

何と答えていいか分からなかったので、曖昧に笑って誤魔化すしかなかった。

 

その日は振替休日なので2人の女子高生はこれからどこかへショッピングに行くらしく、明日は学校があるから7時に落ち合う事になっていた。

夜7時に落ち合ってから家まで送る帰り道、美波は今日起こった出来事を楽しそうに話してくれた。こういうことは初めての経験だった(!)が、美波と恋人同士のように並んで話しながら歩くのに、何の違和感も無かったのが不思議だった。

勿論、気付かれない程度に周りには気を配っていたが。

 

彼女を家の門まで送って、最寄りのメトロ駅のある大通りまで美波と会った余韻に浸りながら歩いていて、今日も徒労に終わってしまったなぁ、お疲れ様、と自分をいたわっていたその時、ちょっと油断していたのかもしれない。

 



悠介がその車に気付いたのは、急に車のヘッドライトらしいもので照らされて眩しくなったからだった。

危ない、と思って素早く横に飛びのいた。その横を車は急加速して通り過ぎて行ってしまった。

 

-ふ~っ、危なかったなぁ。もうちょっとで車にひかれるところだった…。

 

両手の掌をすりむいてはいるが、他はどこも痛くないようだ。

突然ヘッドライトが点いたり急加速したところを見ると、単なる運転ミスや過失ではないかもしれない。

 

-ちょっと甘く見ていたかも…。

 

辺りを見回してみても人影は見えなかった。どうも目撃者はいないようだ。

 

《つづく》

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