恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

第3話 「告白」

あの時、美波ちゃんにあんなこと言われた時は、悠介は心臓が飛び出るほど驚いてしまった。

あの場が一瞬凍りついた、様に感じられた。

凄く嬉しかったけど同時に恥ずかしかったのも事実だ。それに叔母さんが慌てて美波ちゃんをたしなめていたので、彼自身も妙にオドオドしてしまったと思う。何か聞いてはいけないことを聞いてしまったように。僕の母も何とも言えないような顔をしていたと思う。

 

でも、もっと後になって考えた時に、何故叔母さんはあんなに慌てていたのか、単に思い付きで口走る子供の戯言なのに。いや、だからこそ慌てたのかな。

 

高校生の時、従兄妹同士の結婚について色々調べてみた。

勿論、日本では法律上従兄妹婚は認められていて全く問題はないことが分かった。

だから、娘が思いがけないことを口走ったので、単に慌てふためいたというのが本当のところだろう。

 

考え事をしていたら、いつの間にか電車は新宿駅のホームに進入したところだった。降りなきゃ。

 

-2歳年下の従妹にドキドキするなんて、なんかだらしないな。

 

そう自分に言い聞かせてドアに向かった。

西口の何処かで、イタリアンがいいかな、軽く食事をしてから会場へ行こう。

そう思いながら、待ち合わせ場所に向かって行った。

 

 

「いやあ、彼のバックハンドのクロスは凄かったね。あんなの決められたら誰でも返せないよ。」

 

試合は大方の予想を覆して、ランク下位の選手が勝った。聞いたことのない名前だったが、プレ-は素晴らしかった。そう僕が続けると、

「あのイタリアの選手、本当にかっこ良かったわ。」

試合前は少し緊張気味だったが、始まってからは結構はしゃいでいたようだでほっとした。

今は会場から少し離れたカフェにいる。彼女の家はここからメトロに乗っていけば30分ほどのところなので、あと1時間はここで話ができそうだ。

 

今日の彼女は、家で着替えてきたとのことでお洒落な格好だ。髪型はポニ-テ-ルというのだろうか、髪を一つにまとめて縛っている。とても可愛いし良く似合っている。

         

 

特に人目を引くタイプの美人ではないが、すらっとした清楚ではにかむような仕草が何とも言えず人を魅了する可憐さがある。

彼女の決して大きくはないが、服を奇麗に押し上げている胸の膨らみをちらっと盗み見ながら、悠介は思った。自分でもよく分かる。こういう女子が好きなのだと。

 

-守ってあげたい

 

そう思わせる子だ。

悠介はごく自然に、自分の大学の授業のことに話を移していった。そして、その後は彼女の学校生活についていろいろ聞きたい。考えてみれば彼女のことについて知っていることなんて殆どないと言っていい。

 

「そうなんだよ。今日なんか1日中講義ばかりでくたくただったよ。」

「理工系の学生って本当に大変なんだね」

「ところで、美波ちゃんはどの学部に行くつもりなの?  今3年生だから決めなきゃいけないんでしょ?」

「文学部か法学部かな。文学部なら、英文科にしようか仏文科にしようか迷ってるの。どっちがいいと思う?」

「仏文科にしたら? そうしたらフランス語を教えてあげられるよ。」

「本当? そうなったら嬉しいな」

そう言う彼女の目はキラキラ輝いているように見えた。

 

その目を見た、その時の自分の気持ちをどう言い表したらいいだろうか。

可愛い、抱きしめたい、という気持ちが突如湧いてきた。

 

今日、美波に会うにあたってどういうように話を持っていこうか、自分なりに考えてきたつもりだ。

勿論、行き当たりばったりでもいいのだが、成功する確率が五分五分だとみるとやっぱり冒険は出来ないなぁ、ある程度逃げ道を残しておいたほうが良いかも、とか、最悪上手くいかなかったら撤回するとか、思いつく限りのシナリオを考えてみた。

一応理系だから理路整然と話したほうがいいのかな?

 

-やれやれ、高1の時にラブレターを書いた時にそっくりだな。

 

あの時の思い悩んだ日々の記憶が蘇って、悠介は頭を左右に振った。

結局、「採用」したのは、恋愛相談のプロからは馬鹿にされそうなシナリオだった。

話題が途切れたその一瞬を逃さず、でもゆっくりと、でも力強く心を込めて美波の目を見ながら言った。

 

「僕は、美波ちゃんのことが好きなんだ」

 

そう、悠介は直球勝負、それも剛速球ではなくトンボでも止まりそうなフラフラ球をど真ん中に投げたのだった。自分にそんな剛速球なんか投げられるわけがない。

小さい頃から曲がったことが嫌いで、素直に言う事を聞く性格では無かったからか、よく言えば真面目、悪く言えば要領が悪いと言われた。特に母親や姉、それに父方の叔母からよく言われたことがある。どうも女性にはそんな性格は好かれないのだろうか? その性格は10年近くたった今でもそのまま変わりようが無かった。

だから悠介ができることはこれしかなかったと言っていい。

告白したあとも、なぜか胸の高まりを感じることは無かった。だって既に覚悟を決めていたのだから。

 

〈つづく〉

 

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