恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

第2話 密かな思い

美波は受話器をそっと置いた。

まだ胸がドキドキしている。

 

-驚いたわ、電話してくるなんて思ってもみなかった。

 

先ほど母から、悠介クンから電話よ、と聞いた時には思わず、エーっと声を上げてしまった。

今年正月に会った時はあまり話が出来なかったような気がする。話したのは主に、従姉の麗子さん、つまり悠介クンの姉とだけだった。

悠介クンとは、親戚一同がいる前ではどうも話しずらいし、目を合わせるのが何故か恥ずかしい。

-どうしてなんだろう。いつからこんな気持ちになったのだろう。

 

彼は2歳年上の従兄だけど、私は彼のことを小さい頃から「悠介クン」と呼んでいる。母がそう呼んでいたので、わたしも物心ついたころからそう呼び続けているのだ。

 

-でも、悠介クンは何故私を誘ったのだろうか?  そう、どういう気持ちで。

 

美波はフーっと大きなため息をつきながら首を左右に振って目を上げると、廊下の向こうに立っている母と目が合いドキリとした。なにか妙な笑顔を浮かべている。

 

-やだ、ずっと見られていたのかしら。

 

慌てて目をそらして母の横を通り過ぎようとすると、予想通り声をかけられた。

 

「悠介君と行くことになったの?」

「うん、そうだけど。いいでしょ?」

「そりゃ-いいけど。でも遅くなったら悠介クンに送ってもらいなさいよ。」

 

予想通りの内容だった。余り深入りしてこない、根掘り葉掘り訊いてこない。

 

-いったい彼が私を誘ったことをどう思っているんだろうか。

 

さっき自分は悠介クンの誘いに乗ったけど、本当にそれでよかったのか、正直よく分からない。

彼のことは好きか嫌いかと訊かれれば、ひねくれて嫌いじゃあない、と答える。

嫌いじゃないから好きなのか、と訊かれても自分でもよく分からない。

お兄さんのような、そこにいて欲しい、何か懐かしい気持ちになるのは確かだけど。

私に兄はいないので、そういう気持ちになるのは自分でも納得するけど、それだけじゃないのかも、とも思う。

兄のように思っているだけなら、こんなに緊張したり妙に意識したりするだろうか。

 

じゃあ、悠介クンのことを恋愛の対象、つまり恋人として好きなのか、といえばうーんと考えちゃうなぁ。じゃあ、いったい何なんだろうか…。

 

-困ったなあ、行くって約束しちゃったし…。

 

急に、行くことを約束したことが、何か重荷に感じられてきて心が沈んできた。

 

-やっぱり断ったほうが良かったのかな。

 

自分の気持ちがよく分からないのに、会ったらどうなるのか、ちょっと不安だ。

 

でも、急な話だったのでうまい言い訳が思いつかず、何となく承諾してしまっていた。あやふやに断わると気まずくなりそうで、何となくできなかった…。

 

-もし断ったら、彼は二度と誘ってこないだろうし、最悪もう会うことは無くなるかも知れない。

 

無意識にそう感じていたのかも知れない。たとえ会ってもギクシャクして当たり障りのない会話しかできないだろう。

 

-あ―あ、あの時あんなことを言ってしまったために、その後悠介クンとは何故かお互いを意識してしまい、うまく話が出来なくなってしまったような気がする。

 

あれは美波が小学校3年か4年生の頃だから、悠介クンは小学校5、6年生くらいだったかしら。

確か叔母さんの家にお母さんと行って、庭で悠介クンに自転車の後ろに乗せてもらって遊んでいたら、お母さんがもうそろそろ帰ろうか、といったので私が愚図った時に、つい口走ってしまったのだ。

 

「わたし、ゆうすけクンのおよめさんになりたい。」

 

何が引き金となってそんなことを言ってしまったのか全く覚えていないが、母が大いに狼狽えていたのが子供ながらも感じられ、不安になったのを覚えている。

 

「何言ってんの美波、悠介くんはあなたの従兄でしょ。」

 

幼馴染の子供がそう言うのは別に珍しく無いとは思うけど、両方の母親がいる前で言ったのはまずかったようだ。後で母に、しょうがないわね-、とか小言を言われたような記憶がある。

 

-あの時、悠介クンは何て思ったんだろう。そして今、どうして彼は私のことを誘ったりしたんだろう?…

-それより、私はどうすればいいんだろう。

 

〈つづく〉

 

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