恋愛小説 ハッピ-エンドばかりじゃないけれど

大人になったばかりの男女大学生たちの、真剣だけれどドジな行ったり来たりを繰り返す、恋と友情の物語

第1話 従兄妹同士

あらすじ

付属高校から理工系学部に進んだ大学2年生の城ケ崎悠介は、男子高出身だったこともあり、高校以来女子学生との出会いが少ないのが悩みと言えば悩み。どちらかと言えば周りの仲間たちに埋もれて存在感の薄かった悠介が、これから出会う人たちとの交流・交際を通して成長していく恋愛物語です。

週に2,3回程度追加予定です。

 

主な登場人物 

 

城ケ崎悠介 私立W大学理工学部2年生

一見優男で優柔不断なところもあるが、反面いったん決めたらとことんやる一途な一面もある。曲がったことが嫌いで、家族(特に女性陣)から不器用な性格と言われる。小さい頃から失恋ばかりで、恋愛に関しては成功体験ゼロ。2歳上の姉と両親との4人家族。

滝本純一 同理工学部2年生

悠介の付属高校以来の親友のひとり。とにかく人を引き込む話術は一品でやんちゃな性格な一方で、高校では空手部の主将を務めた硬派でもある。とにかく要領のいい、悠介とはある意味真逆の性格。

吉福正樹  同経済学部2年生

悠介の付属高校以来の親友のひとり。185センチの長身だが、腰は軽く素早い身のこなしで交際範囲が広く、いろいろなところにコネを持つ役に立つ男。

黒川尚大  同商学部2年生

悠介の付属高校以来の仲間のひとり。実家が裕福で仲間内では、庭に『金のなる木』があると噂される気前のいい男。

佐々木里穂 同教育学部2年生 悠介の中学時代の片思いの人

 

松崎美波  悠介の従妹 K大女子高3年生

悠介が小さい頃から密かに思いを寄せている、スレンダ—で可憐な女子。性格は大人しい。過去のある事から、悠介とは必要以上に意識し合うようになった。

石川真理  美波の同級生で親友

小柄のぽっちゃり系で、美波とは対照的に活発でしっかり者の女子。美波の良き相談相手でもある。

吉岡美里 F女学院大学1年生 フラワ-ショップの娘

悠介との衝撃的な出会いもあり、お互いに反発しながらも魅かれていく。母親譲りの気の強い性格の半面、優しい男らしい男性との出会いを夢見る女子でもある。

芦田祐子 同1年生で美波の親友

如何にも良家のお嬢さまという容姿に、おっとりと大人びた口調の長い黒髪をした女子。率直で飾らない性格を美里が気に入っており、大の親友。

 

 

 

「疲れたなぁ、くたくただ。」

息も絶え絶えにそう言うと、滝本は、

「くそくらえだ、全く。朝から夕方まで休み無しだぞお。」

そう、今日は週の最後の金曜日。この日は学生たちに魔の三大力学と恐れられているうちの、熱力学と材料力学が午後一杯詰まっていた。しかも午前中は製図が2時限3時間ぶっ通しで、ランチの時間以外全く息を抜けなかったのだ。

「まあ、でも終わったからいいか。でもこれだけ気を張り詰めてやっていると、腹減ってくるよなぁ。おまえはこれからどうする?  ちょっと早いけど腹減ったから焼肉でも食いに行かないか? 2人で800グラム食えば割引になる店知ってるんだ。」

「いや、今日はダメだ。ちょっと約束がある。」

「フーン、金曜の夜に約束とはなぁ。」

と言いながら、訝しげに顔を覗き込んでくる。

「お前なんか緊張してない? もしかしてデートだったりして。ハハハ、でもそれは無いな。急に彼女が出来る訳ないしな。」

とニヤニヤ笑っている。嫌な奴だ。アホなこと言う割には結構勘が鋭いところがあるのだ。

 

滝本純一とは今の大学の付属高校1年からの付き合い、まあ親友、というか腐れ縁の一人でと言った仲だ。そのまま大学の学部まで一緒になってしまったから、悠介のことは、悔しいことにだいたい知っているのである。すべてじゃあないけど。

 

高校時代、空手部に所属し主将も務めた男である。

僕より背は低く一見して優男に見えるが、高校時代に「俺の腹を殴ってみろ」と言われたのでやってみたが、こちらの拳が痛くなる程腹は筋肉マッチョであった。

彼の特技は、とにかく話が旨い。話をさせると人垣が出来るほど皆を楽しませるし、授業を途中で抜け出し、後でそれが露見し大騒ぎになったこともある、なんともお騒がせな奴でもある。授業は熱心に聴いてはいないが、成績はかなりいい。まあ、とにかく要領がいいやつなのだ。

 

高校は男子ばかりの男子校、大学は理工学部に進んだので女子生徒は文科系学部と比べるとかなり少ない。しかも理工学部の中でも女子学生比率が低い機械工学科に進んだので、高校入学以来、女子とは殆ど縁がない。しかも、2年になって一層授業の密度が濃くなり、増々女子と出会える時間、機会も無いというかなり悲惨な学生生活を送っている。

       



やっと新学年の授業にも慣れてきた4月中旬、夕方はまだ少し肌寒いが、気持ちが高ぶっているせいかむしろ少し汗ばむほどだ。

大学の敷地を出て、滝本とは左右に分かれ最寄りの駅に向かって歩いている。ここで道は二手に分かれる。いつもは右手に行くが、今日は左だ。新宿で彼女とおち合う事になっている。

 

10日前のことを思い出す。

やっと見つけた電話ボックスの受話器を取り上げ、ダイアルを回す。番号は覚えてしまっていた。これを使うのはいつ以来だろうか。

呼び出し音が鳴って、女性の声が聞こえる。叔母の声に間違いない。ちょっと緊張して

「城ケ崎の悠介です。どうもご無沙汰しています。こんな時間に突然電話してすみません。」

話すのは、今年の正月に親戚の家で行われた新年会に集まって以来のことだ。

「悠介君? 久しぶりね、どうしたのこんな時間に。」

今、夜の9時である。ここからが肝心のところだ。

「実は、テニスのコーチをしている叔父から、来週金曜日のテニスの国際試合のチケットを2枚もらったので、美波ちゃんの都合がつけばどうかなと思って。ちょっと急な話ですみません。」

「あらそう、有難う。じゃあちょっと待っててね。美波を呼んでくるから。」

どうもこの叔母さんと話すときは妙に緊張する。すごく優しくて良い人なんだけど、美波のお母さんだと思うと自然に体が硬くなってしまう。あの事を知っているので。

 

どのくらい経ったろうか、メロディが途切れ、

「もしもし美波です。」

消え入りそうな声が聞こえる。緊張しているのかな。

「ああ美波ちゃん、元気? こんな時間に電話してごめんね。いや実は…」

用件を一気に澱みなく言えたのでホッとする。良かった。

「…という事で、良かったらその試合見に行かない?」

 

さて、どんな返事が返ってくるか。胸がどきどき高鳴っている。落ち着け、落ち着け!

ちょっと間があったのち、

「ありがとう。うん、いいよ。じゃあ、何時に何処で待ち合わせればいい?」

\(^_^)/ 

よし、と無言で叫んで空いている左手の拳を握る。

 

場所と時間を決めてから、静かに受話器を下ろした。握っていた右手がじっとり汗ばんでいる。

 

やれやれ、従妹なのになんでこんなに意識しちゃうのかな。

 

従妹の美波のことは、ある事がキッカケで必要以上に変に意識するようになってしまっていた。あの時から。

 

〈つづく〉

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